政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

 先週13日、改憲に必要な国民投票年齢を施行4年後に現行の20歳以上から18歳以上へ引き下げることなどを定めた「改正国民投票法」が、共産党と社民党をのぞく与野党8党の賛成多数により可決・成立した。改正案に賛成の民主党が、安倍総理が意欲をみせる集団的自衛権行使の憲法解釈見直しをけん制するねらいから、9日の参議院憲法審査会幹事懇談会で、採決の条件として「憲法の解釈変更は行わない」などとする付帯決議の採択を求めた。当初、与党側は民主党の要求を突っぱねたが、11日の参議院憲法審査会での採決に先立ち、政府が憲法解釈を「変更することが許されないことではない」としつつ、「政府が憲法解釈を便宜的、意図的に変更するようなことがあれば、政府の解釈、憲法規範そのものに対する国民の信頼が損なわれかねない」と、政府の自由な憲法解釈変更を牽制するとともに、国会審議の充実を求める付帯決議を採択することとなった。月内の公布と同時に施行される見通しだ。

 

 2007年5月に成立した現行法では、国民投票の年齢を「18歳以上」と規定しつつも、付則で公職選挙法の定める選挙権年齢や民法の成人年齢も「18歳以上」に引き下げるよう盛り込まれていた。しかし、与野党の対立で議論が進まず、国民投票を実施することができない状況となっていた。今回の改正では、選挙権年齢引き下げをめざすことで与野党8党が合意し、「2年以内を目途に必要な法制上の措置を講ずる」こととなった。通常国会中にも与野党8党によるプロジェクトチームを発足させる予定だ。プロジェクトチームでは、選挙権年齢の引き下げのほか、検討課題となっている組織的運動の規制や、国民投票法の対象拡大についても検討されるという。

 

 また、改正国民投票法の成立を受け、憲法改正に向けた動きも出始めている。改憲案の国会発議には衆参両院それぞれ3分の2以上の賛成が必要で、今回の改正法では、衆参両院で3分の2以上の賛成を得て成立した。このため、自民党など改憲をめざす勢力は、具体的な改憲論議を本格化させ、今後の憲法改正論議に弾みがつけたい考えだ。

 自民党は、1回目の憲法改正発議は、3分の2以上の8党で合意できそうな条文を選定し、憲法改正の実績を2年前後でつくることをめざしている。具体的には、「環境権」や「プライバシー権」のほか、大災害など有事において総理の権限を一時的に強める「緊急事態条項」の新設などが挙がっている。自民党は、今週中にも会合を開いて、どの条文から変えるべきかなどについて所属議員の意見をヒアリングする予定だという。ただ、与野党8党は、改憲へのスタンスや重視する点で違いもあるだけに、具体的な改正項目で一致できるかはいまのところ不透明だ。今後、憲法論議をめぐって与野党の駆け引きが続くかもしれない。

 

 このほか、大手電力会社の地域独占体制を撤廃するため、2016年をメドに電力の小売り事業を全面自由化する「改正電気事業法」が、11日の参議院本会議で与党などの賛成多数により可決・成立した。13日の参議院本会議では、教育行政に対する自治体首長の権限を強化する「改正地方教育行政法」などが与党などの賛成多数により可決・成立している。

 

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 昨年の臨時国会で成立した特定秘密保護法にもとづいて、政府の秘密指定・解除の運用状況や指定妥当性を監視する「情報監視審査会」(仮称)を衆参各院に設置して政府の特定秘密の適否を審査・審議することや、政府に運用改善を求める勧告権の付与、漏えいした国会議員への懲罰などについて盛り込んだ「国会法改正案」が、10日、衆議院議院運営委員会で趣旨説明が行われ、審議入りした。民主党・日本維新の会・結いの党は、与党改正案の対案を衆議院に共同提出した。衆議院または参議院の議長が提出を求めた場合、「第三者に提供しない前提で入手した情報や情報源に関する情報」を除き、政府が情報提供に応じるよう義務付ける内容となっている。同改正案も、与党案とともに10に審議入りした。

 

 与党案と野党3党の対案は、12日の衆議院議院運営委員会で採決された。与党案は与野党5党の賛成多数により可決したが、野党3党の対案は賛成少数で否決された。日本維新の会と結いの党は、情報提供の義務づけ以外はほぼ与党案に賛同できるとして両案に賛成した。与党案は、13日の衆議院本会議でも与野党5党の賛成多数により可決し、参議院に送付された。通常国会会期末(6月22日)までの審議日程が窮屈な状況となってきていることから、与党は、20日にも参議院で可決・成立させるべく成立に全力を挙げる方針だ。

 一方、共産党・社民党などが16日、特定秘密保護法を廃止するための法案を、参議院に共同提出した。民主党などに賛同を呼び掛ける方針でいる。

 

 

 国会議員の定数削減を含む衆議院選挙制度改革をめぐっては、12日に開かれた衆議院議院運営委員会理事会で、民主党が有識者で構成する第三者機関の有識者人選を伊吹衆議院議長に一任することを認めた。赤松副議長(民主党)が伊吹議長とともに人選にあたることとなったため、与党側の提案を受け入れた。これにより、定数削減に反対している共産党と社民党を除く与野党各党が伊吹議長に第三者機関の人選を一任することで足並みをそろえることとなった。

 13日に開かれた議員運営委員会理事会で、20日に開催される議院運営委員会で人数や諮問事項など第三者機関の要綱案を議決し、正式に発足させることが確認された。伊吹議長は、機関設置が議決された後、改革内容に溝がある与野党の主張にも配慮しつつ、人選を進めるようだ。

 

 

 集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更などについて協議する自民党と公明党の「安全保障法制の整備に関する与党協議会」が10日に開催され、集団的自衛権の行使をめぐる議論を行った。集団的自衛権でないと対応できないケースがあると主張する政府・自民党と、個別的自衛権や警察権などの拡大で対応可能と主張する公明党の間で、議論は平行線に終わった。

 高村座長(自民党副総裁)は、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更を含む閣議決定について「今国会中の閣議決定には、次回の会合に案文を出してもらわないと日程的に間に合わない」と述べ、13日の次回会合で閣議決定案文原案を提出するよう政府側に要請した。自民党は、20日に閣議決定を想定リミットと位置付けている。これに対し、北側座長代理(公明党副代表)は「党内的にまとめるのはかなり困難」と難色を示した。

 

 11日に行われた党首討論では、集団的自衛権の行使容認をめぐる論戦が中心となった。海江田・民主党代表は「会期内の閣議決定は拙速だ。正々堂々と憲法改正の発議をすべきだ」と政府・与党の手法を批判した。しかし、安倍総理から明確な答弁を引き出すことができず、議論の大半はすれ違ったままだった。一方、安倍総理は、行使容認に理解を示す日本維新の会、みんなの党について「こういう立場こそ政治家の責任だ」と持ち上げた。与党協議で慎重姿勢を崩してこなかった公明党にプレッシャーを与えるねらいがあったようだ。

 これまで行使容認に慎重姿勢を崩してこなかった公明党は、海外での武力行使を「国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される急迫、不正の事態」への対処に限定することで、集団的自衛権の行使を一部容認する方針へと転換した。一部容認の前提として、安倍総理が示した「わが国の存立を全うするための必要最小限度」が、政府・自民党が説明する条件では際限がなくなりかねないとして、より限定した歯止めを求めていくこととしたのである。

 

 公明党が歩み寄りの姿勢をみせたことを受け、政府・自民党は、憲法解釈変更の閣議決定時期を通常国会会期末から短期間先送りする方向で調整に入った。また、閣議決定文案は公明党に配慮して17日の会合で提示することとなった。

 13日の会合では、高村座長が自衛権発動の「新3要件」私案を提示した。現行の発動3要件の第1要件「わが国に対する急迫不正の侵害があること」を、他国に対する武力攻撃が発生したことで「わが国に対する武力攻撃が発生したこと、または他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがある」場合は武力行使が認められると修正する内容だ。これに対し、公明党は、集団的自衛権の行使容認の幅を限定する修正を要求していく方針だ。

 

 いまもなお、閣議決定原案をめぐって与党の激しい駆け引きは続いている。政府・自民党には、必要最小限度の基準をあいまいにして、シーレーン(海上交通路)の機雷除去や強制的な船舶検査なども対象に含めるとともに、将来的に武力行使の幅をひろげたい思惑がある。一方、公明党内には、容認に傾きつつあるものの、集団的自衛権の行使容認そのものへの慎重論もいまだ根強い。このことから、閣議決定まで与党内のギリギリの攻防が続いていきそうだ。

 

 

 政府・与党は、通常国会を延長しない方針を固めており、今週20日には事実上閉幕する。与党は、残った議案の審議・採決を粛々と進めていくようだ。

 その一方で、来週にかけ、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更など閣議決定文案の最終調整、今月発表予定の成長戦略の策定などが進められていく。このような重要局面にあるだけに、政府・与党の動向を中心に決め細かくみていくことが大切だ。
 

原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】
 
 安倍総理は6月に入って、「来年度から法人税引下げ」を明言している。
 自民党政権では、税制に関しては伝統的に、政府よりも党税調が強い力を持つ。昨年末の予算編成プロセスでも、安倍総理が法人税引下げに意欲を見せていたものの、結果的には、すでに決定済みの引き下げ(復興法人特別税分の前倒し引き下げ。つまり、実効税率ベースでは38%から35%へ)にとどまった。
 今回は、6月下旬の骨太方針・成長戦略改訂を見据えて、このタイミングで総理が対外的に発言していることを考えると、おそらく、すでに党との間でも、何らかの引き下げを行なうことはすりあわせた上でのメッセージと考えるのが自然であり、月内に一定の決定がなされることになろう。

 ただ、問題は、どの程度の引き下げがなされるかだ。
 日本の35%に対し、OECD諸国(日本を除く)の平均は25%。近隣国をみても、香港16.5%、シンガポール17%、韓国24%と、近隣国との間には大きな差がある。
 これだけの違いあれば、グローバルに活動する企業が事業拠点を海外に移すのは自然であり、結果として最も困るのは、国内で雇用機会を奪われる人たちだ。
 安倍総理は1月のダボス会議で、法人税を「国際的に競争可能な水準」に引き下げることを表明しているが、これを文字通り実行できるかどうかが問われる。

 ただ、これまでの政府会議などから垣間見えるところでは、そうした大胆な引下げがなされるのかは定かでない。
 例えば、5月15日の経済財政諮問会議で民間議員が提出した資料では、「世界で最も企業が活動しやすい国」を目指すため、「法人税の実効税率について、将来的には25%を目指しつつ、当面、数年以内に20%台への引き下げを目指すべき」と提案されている。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2014/0515/shiryo_01_2.pdf


「20%台」というのは「29.・・%」という意味だから、この提案の意味は、
・数年かけて5~6%程度の引き下げ、
・その先の将来に25%へ、
ということだ。「世界で最も企業が活動しやすい国」になるのは、かなり先のことになる。
 この種の会議では、民間議員が思い切った改革提案を行ない、調整を経て、もう少し穏やかな案に落ち着くことが一般的。民間議員提案の段階でこれでは、どうなってしまうのか・・と思われなくもない。「数年で5~6%の引き下げ」では、民主党政権下で表面税率5%引下げ(実効税率35%へ)よりかなり小幅ともいえよう。

 一方、地方自治体からは、より大胆な提案もなされている。
 例えば、国家戦略特区に選ばれた大阪府や福岡市は、特区内に限るなどの一定の限定を課しつつ、よりスピーディに大胆に法人税を引き下げることを提案している。特に大阪府・市の場合は、すでに総合特区内で一定企業に対し、地方税(地方法人税、固定資産税など)をゼロにしてきた実績を踏まえての提案だ。

 海外に流れつつある事業拠点を国内に呼び戻し、さらに世界の企業・人材を呼び寄せようと本気で考えるのであれば、少なくとも特区限定といった措置でも、スピーディで思い切った引き下げを検討すべきかもしれない。
 

 

 先週5日、ブリュッセルの欧州連合本部で開かれた先進7カ国首脳会議で、安倍総理は「成長志向型の構造に改革するため、さらなる法人税改革を進めていく」と、国際競争力に打ち勝つ観点や、2020年の財政健全化目標の実現に向けて着実に取り組みつつ、法人税の実効税率引き上げを含む成長志向で税制改革に取り組む決意を表明した。また、電力・医療・農業分野などの規制改革、新たな労働時間制度、外国人労働者の活用などの成長戦略や、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人改革などを進めていく意向も示した。

 

 それに先立つ3日、自民党は、税制調査会(野田毅会長)の正副会長会合を開き、法人税改革の提言をとりまとめた。提言では、法人税の実効税率引き下げを容認する一方、その前提として外形標準課税(地方税)などの拡充を念頭に一部の黒字企業に偏っている税負担を赤字企業にも広く求めるような課税ベースの拡大、減税に見合う恒久の代替財源の確保などが不可欠と強調している。当初、自民党税制調査会や財務省は、財政健全化の観点から法人税の実効税率引き下げに慎重だったが、安倍総理の強い意向を受け、条件付き容認で歩み寄る格好となった。

 

 これにより、政府・与党は、来年度からの法人税の実効税率引き下げを実施する方針を固めた。政府・与党で調整のうえ、今月末に策定・決定する経済財政運営の基本方針「骨太の方針」に明記する。具体策については、年末の税制改正論議で最終的に決定することとなるという。

 甘利・経済財政担当大臣は、法人税の実効税率引き下げを「5年程度で20%台」という数値目標を主張しているものの、引き下げ幅と期間についてどのようにするかはいまだ曖昧のままだ。また、代替財源をめぐっても、政府・与党内で異なる見解が示されており、調整がついていない。骨太の方針にどこまで盛り込むかをめぐり、政府・与党内の綱引きが激しくなっていくだろう。

 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は以下のページからご覧になれます。

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 施行4年後、改憲に必要な国民投票年齢を現行の20歳以上から18歳以上へ引き下げることなどを定めた国民投票法改正案については、11日の参議院憲法審査会で採決することとなった。与野党7党と新党改革などの賛成多数により可決・成立する見通しだ。同法案の成立に見通しがたったことを受け、改正案を共同提出した与野党7党は、公職選挙法の選挙権年齢を18歳以上に引き下げについて検討するプロジェクトチームの初会合を、通常国会の会期末までに開催するという。

 

 

 昨年の臨時国会で成立した特定秘密保護法にもとづく政府の秘密指定・解除の運用状況や指定妥当性を監視する国会の監視機関について、4日、与党と民主党が実務者協議を行った。与党は、衆参各院に「情報監視審査会」(仮称)を設置して政府の特定秘密の適否を審査・審議することや、政府に運用改善を求める勧告権の付与、漏えいした国会議員への懲罰などを盛り込んだ「国会法改正案」への協力を求めた。これに対し、民主党は、国会が記録提出を要求しても「国家の重大な利益に悪影響を及ぼす」と政府が判断すれば特定秘密の提供を拒否できるとの規定が与党案に盛り込まれているとして、「政府が提供を拒否する理由が限りなく広がる」などと批判した。

 民主党は、与党が提出した国会法改正案の対案をとりまとめており、国会提出する方針だ。民主党案は、衆議院もしくは参議院の議長が提出を求めた場合、「第三者に提供しない前提で入手した情報や情報源に関する情報」を除いて、政府が情報提供に応じるよう義務付ける内容になるという。

 

 

 議員1人あたりの人口格差(1票の格差)是正策に向けた参議院選挙区制度改革をめぐっては、現行制度を維持しながら議員1人あたりの有権者が少ない隣接選挙区同士をあわせて1選挙区とする合区案(22選挙区を11選挙区に統合)に、足元の参議院自民党も含め、多くの政党が反対・慎重論を唱えている。このことから、参議院各会派でつくる「選挙制度協議会」の脇座長(自民党参議院幹事長)は、合区対象選挙区を20選挙区を10区に合区する案と、10選挙区を5区に合区する案を加えた3案を、7月26日に予定される次回会合で再提示して、各党に検討を求める方針だ。当初案では、人口格差が約1.83倍だったの対し、再提示予定の修正案では2.5倍前後にひろがるという。

 ただ、参議院自民党などには合区そのものに反発する声も根強いだけに、いずれの案も受け入れらないまま、協議が進展しない可能性もありそうだ。自民党は、プロジェクトチームを近く設置して、1~2カ月かけて独自の改革案をとりまとめるという。

 

 

 集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更などについて協議する自民党と公明党の「安全保障法制の整備に関する与党協議会」が、3日と6日に開催された。協議を加速させたい自民党は、議論の時間を確保するとともに、会合の開催頻度を増やすよう、3日の協議会会合で打診した。自民党の提案に公明党も応じ、協議会会合の開催ペースは、原則、週2回程度となった。

 

 政府が示す法整備などの対応が必要な15事例のうち、有事に至らないグレーゾーン事態については、公明党が、グレーゾーン事態のうち「漁民を装った武装集団の離島上陸などへの対処」「公海上で海賊などに襲われている日本船舶に訓練中の海上自衛隊の艦船が遭遇した局面での対処」の2事例について、現行法の運用改善にとどめて大筋容認する方向で調整してきた。政府は、自衛隊が治安出動や海上警備行動の発令手続きを迅速化すべく、3日の協議会会合で、(1)あらかじめ閣議決定し、自衛隊が迅速に対処できるよう海上警備行動を発令しておくこと、(2)閣議決定を閣僚が電話で済ませられるよう手続きを簡素化する案を提示した。ただ、政府・自民党が自衛隊法改正による武器使用基準の見直しなどについて否定しなかったため、公明党は回答を見送った。

 6日の協議会会合では、自民党が公明党に歩み寄り、当面は警察・海上保安庁・海上自衛隊の連携強化や発令手続き迅速化など現行法内での運用改善で合意に至った。新たな法整備については、今後の研究課題とした。

 グレーゾーン事態の「平時の弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護」については、政府が自衛隊の装備を防護する自衛隊法の条項を見直し、自衛隊と共同で活動する米艦を防護対象に加える案を示したが、公明党は回答を留保した。

 

 国際協力分野の「侵略行為を制裁する多国籍軍の武力行使への支援」については、3日の協議会会合で、政府が、国際連合・安全保障理事会決議にもとづく国際協力活動が柔軟に対応できるよう、戦闘地域であっても条件をクリアすれば、多国籍軍に対する自衛隊の後方支援(物資輸送、補給など)を認める新基準案を提示した。

 これまで自衛隊の後方支援は、可能領域を個別法で「非戦闘地域」に限定されてきた。新基準では、(1)支援先が現に戦闘を行っている他国部隊、(2)戦闘行為に直接用いられる物品・役務の提供、(3)支援する他国部隊が現に戦闘を行う現場での提供、(4)支援が他国部隊の個々の戦闘行為と密接に関係すること、のすべてに該当すれば、日本国憲法第9条が禁じている「他国の武力行使との一体化」となり、後方支援は認められないとしている。地理的制限を設けず、憲法に抵触する基準を定めることで、戦闘地域での輸送支援や人道色の強い医療支援などを解禁したい考えだ。

 しかし、公明党は、非戦闘地域の撤廃は現行解釈を踏まえたものとして理解を示しつつも、「戦闘地域での戦闘行為以外は何でもできるようになる」と反発した。このため、6日の協議会会合では、4条件を撤回したうえで、(1)現に戦闘がおこなわれている地域では支援しない、(2)支援地域が戦闘状態になった場合は直ちに撤退する、(3)人道的な捜索・救助活動は例外とする、との修正新基準を再提示した。非戦闘地域の概念を取らず、後方支援可能な対象を厳格化したものだ。公明党は、戦闘中の後方支援はしないことが明確になったとして、新基準に一定の理解を示した。

 

 グレーゾーン事態の3事例と国際協力分野の4事例の論点がほぼ出そろい、残る武力行使活動の8事例の本格的な議論が今週から開始する。年末の日米防衛協力の指針(ガイドライン)の改訂に間に合わせたい安倍総理はじめ官邸は、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の見直しを含め、通常国会中にも閣議決定する方向で準備を進めている。それに呼応して、高村・協議会座長(自民党副総裁)が、6日の協議会で「政府が考える閣議決定、政府方針をいつでも出せるよう準備してほしい」と、政府側に閣議決定の原案を策定するよう要請した。

 政府は、与党側と集団的自衛権の行使を認める文言調整を急いでいる。また、行使容認に慎重な公明党の理解を得るため、「自衛隊を他国の領域に原則として派遣しない」「国会の関与」といった集団的自衛権の行使に一定の制限を設け、その手続きなどについて示した「指針」策定も進めているという。20日にも閣議決定を行う案が政府内で浮上しており、自民党と公明党の駆け引きは、大きなヤマ場を迎えそうだ。

 

 

 今週11日には、党首討論が行われる。党首討論では、集団的自衛権の行使容認をはじめとする安全保障政策のほか、成長戦略、労働・雇用問題などが争点になるとみられている。

 民主党・日本維新の会・みんなの党の党首たちが安倍総理にどのような論戦をしかけ、安倍総理からどのような言質をとるのだろうか。安倍総理の発言次第では、集団的自衛権の行使容認をめぐる与党協議や終盤国会の行方に影響を与える可能性もある。一方、党首討論が不発に終われば、海江田・民主党代表おろしなど野党再編の動きが加速するかもしれない。

 こうした点も踏まえ、会期末まで残り2週間をきったなかで実施される党首討論をウォッチしておきたい。

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