政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

原英史・株式会社政策工房 代表取締役社長】 

 政府の成長戦略改訂版は、今日にも決定の方向だ。すでに原案は明らかにされており、「法人税引下げ」「労働時間規制改革」「農業改革」「混合診療」「外国人の受け入れ拡大」など、難題にも一定程度は手が付けられる方向だ。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai17/siryou.html

 もっとも、詳細は今後に委ねられている部分が多い。
 例えば、法人税については「数年で20%台」という方向だが、具体的な税率はどうなるのか。現状では、日本の35%に対し、OECD諸国(日本を除く)の平均は25%。近隣国をみても、香港16.5%、シンガポール17%、韓国24%と、近隣国との間には大きな差があり、これだけの違いあれば、グローバルに活動する企業が事業拠点を海外に移すのも無理はない状態だ。内外の投資を呼び込めるような措置を迅速に講じることが求められているが、具体論はこれからだ。こうした中、福岡や関西からは、国全体での減税より踏み込んで、よりスピーディに大胆な減税を求める声もあがっており、こうした可能性も含め、さらに検討される必要があろう。
 労働時間規制については、「年収1000万」という水準が示して(当初は年収7000万以上の人に絞るなどという議論があった)、パフォーマンスに応じた働き方を認める方向となったことは良いが、具体的な制度設計は、今後、労働政策審議会で議論されることになっている。
 また、農業改革では、農業委員会制度、農業生産法人要件、農協改革などについて一定の前進はあったが、制度の詳細設計は今後に委ねられ、たとえば「JAの株式会社化」なども、どこまで実効性ある改革になるかは今後の課題だ。
 こうした詳細・具体策がどうなっていくのか、引き続き注視していく必要がある。

 また、今回の成長戦略改訂にあたって、顕在化した問題のひとつは、関係会議の分断状態だ。
 例えば、農業改革については、産業競争力会議の農業分科会、規制改革会議のWG、国家戦略特区の関係会議などで議論がなされた。また、外国人問題については、さらに経済財政諮問会議などでも議論がなされた。こうした会議体の相互連携は必ずしも十分でなく、例えば、「全国ベースの規制改革か特区での実験的な規制改革の選択を迫る」といった(かつての構造改革特区では当然になされていたいような)議論さえ十分にはなされたとは言えない。
 安倍総理が1月にダボス会議で表明した「今後2年間で岩盤規制を打ち破る」を実現するためには、こうした体制面での整備も課題だ。

 先週20日、1月24日に召集された第186通常国会が、会期末の22日を前に事実上、閉会した。

 

 石原環境大臣が、東京電力福島第一原発事故の除染で出た汚染土などを保管する中間貯蔵施設建設をめぐる被災地との交渉に絡み、「最後は金目でしょ」と発言した。その後、石原大臣は、19日の参院環境委員会で「用地補償、生活再建、地域振興策の規模を示すことが重要な課題になってくるということを申し上げた。お金ですべて解決するというような意図ではない」と釈明したうえで、「品位を欠き、誤解を招く表現だった」と陳謝して発言を撤回する。野党側が求めた自発的辞任については拒否した。このため、野党側は「きわめて不適切な発言」「大臣としての資質に欠ける」などと批判して、19日に石原大臣の問責決議案を、20日に不信任決議案をそれぞれ共同提出するに至った。

 また、野党が石原大臣の両決議案を提出したことに反発して、与党は、20日に予定されていた衆議院環境委員会での石原大臣に対する質疑を中止した。伊藤・衆議院環境委員長(自民党)の議事運営に抗議して、野党は、環境委員長の解任決議案を衆議院に提出した。

 石原大臣の不信任決議案および問責決議案、環境委員長の解任決議案は、それぞれ20日の衆参両院本会議で与党の反対多数により否決された。

 

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は以下のページからご覧になれます。

 衆議院インターネット審議中継:http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php

 参議院インターネット審議中継:http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php

 

 昨年の臨時国会で成立した特定秘密保護法にもとづいて、政府の秘密指定・解除の運用状況や指定妥当性を監視する「情報監視審査会」(仮称)を衆参各院に設置して政府の特定秘密の適否を審査・審議することや、政府に運用改善を求める勧告権の付与、漏えいした国会議員への懲罰などについて盛り込んだ「改正国会法」は、20日の参議院本会議で与党やみんなの党などの賛成多数により可決・成立した。衆議院で賛成した日本維新の会と結い両党は、審議が尽くされていないなどとして採決を棄権した。

 それに先立って行われた参議院議員運営委員会の採決をめぐっては、民主党などが「審査会の活動にあいまいな点が多く、議論がまだ不十分」と、審議続行を要求して採決を急ぐ与党側を牽制した。しかし、与党が採決を強行したため、野党は、岩城・参議院議院運営委員長(自民党)の解任決議案を提出する。解任決議案は、20日の衆参両院本会議で与党の反対多数により否決された。

 

 昨年12月に成立した社会保障制度改革の実施スケジュールを定めたプログラム法の内容を具体化する第一弾として、在宅医療推進のための改正医療法や介護保険サービスの負担増につながる改正介護保険法など法律19本を一括りに、地域医療と介護保険制度を一体で見直す「医療・介護総合推進法」が、18日の参議院本会議で与党の賛成多数により可決・成立した。

 民主党など野党は、負担増や介護サービス低下につながると反発したほか、医療・介護分野の法改正を一括して国会審議を求めたことに「多数の法案を一括審議する国会運営は乱暴。丁寧な議論の場もなく審議不十分」「十分な審議もなくすべて成立させることをねらった国会対策」などと強く批判した。衆議院で与党が強行採決を行ったことに加え、参議院本会議で審議入りした際に厚生労働省が議員に配布した趣旨説明の資料にミスが発覚したことなどに反発した。全野党が反対に回る事態のなか、参議院での審議入りが遅れるというアクシデントもあったが、成立に至った。

 

 このほか、20日の参議院本会議で可決・成立した政府提出法案は、改正会社法のほか、国立大学改革を学長主導で進める改正学校教育法・国立大学法人法などの5本だ。社外取締役の設置を促す改正会社法では、社外取締役を設置しない場合に株主総会で理由を説明しなければならないと明記されたほか、付則で法施行から2年後の状況をみて設置の義務化を検討するとなっている。

 

 政府が通常国会で新規提出した法案81本のうち79本が成立した(成立率97.5%)。衆参のねじれが解消したことに加え、高支持率を推移する安倍内閣に対して野党各党の足並みがそろわなかったため、終始、政府・与党ペースで法案処理が進んでいった。

 審議未了で廃案となった政府提出法案は、派遣労働者を企業が受け入れる期間の上限(最長3年)を事実上撤廃することを柱とした労働者派遣法改正案など2本だ。派遣会社の事業主に対する同法案の罰則規定が「1年以下の懲役」とすべきところを「1年以上の懲役」と誤記するミスが判明した。これに野党が「法案自体を出し直すべき」と反発したため、審議入りのメドが立たないままとなっていた。政府・与党は、秋の臨時国会に改めて提出する構えだ。

 

 

 国会議員の定数削減を含む衆議院選挙制度改革をめぐっては、19日に開かれた衆議院議院運営委員会で、地方自治体の首長や学識経験者ら15人程度で構成する第三者機関「衆院選挙制度に関する調査会」の設置を共産党を除く与野党の賛成多数により決定した。第三者機関を伊吹衆議院議長の諮問機関とし、諮問事項は議員定数の削減や1票の格差是正策、選挙制度の問題点などについてとなった。伊吹議長は、改革内容に溝がある与野党の主張にも配慮しつつ、赤松副議長とともに調査会メンバーの人選を進め、7月中に終える方向で進めていくという。

 

 

 17日と20日に開かれた集団的自衛権行使を限定的に容認に向けた憲法解釈変更などについて協議する与党の「安全保障法制の整備に関する与党協議会」で、政府は、自民党・公明党に閣議決定原案を正式に提示した。

 原案は、(1)有事に至らないグレーゾーン事態「武力攻撃に至らない侵害への対処」、(2)多国籍軍への後方支援拡大や武器使用など、国連平和維持活動を含む「国際社会の平和と安定への一層の貢献」、(3)集団的自衛権の行使を含む「憲法第9条の下で許容される自衛の措置」、(4)「今後の国内法整備の進め方」で構成されており、これらを踏まえて国内法整備に取り組む方針を示した。自民党と公明党が協議中の(3)については、前回13日の協議会会合で高村座長が示した「自衛権発動の新3要件」案をとりいれたうえで、新3要件に基づく武力行使は「国際法上は集団的自衛権にあたる」と明記されていたという。ただ、公明党が新3要件に関する意見集約に入っていないことから、17日の協議会会合では具体的な議論は見送られた。

 このほか、政府が集団的自衛権の行使を容認するよう求めている、中東ペルシャ湾などを念頭に置いた「戦争中の海上交通路(シーレーン)での機雷除去」について議論された。集団的自衛権の行使が必要と主張する政府・自民党に対し、公明党は「集団的自衛権ではなく警察権でできる」と主張しため、平行線をたどった。

 

 公明党は、発動の第1要件「わが国に対する武力攻撃が発生したこと、または他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがあること」としていることについて、拡大解釈の余地が大きいとして、「切迫した危険」などより限定的な文言にするよう求める方針だ。また、「他国に対する武力攻撃」も「密接な関係にある他国」と限定すべきとしている。こうした公明党の修正要求に、政府・自民党は前向きに応じる方針だ。

 ただ、政府が提示したシーレーンの機雷除去を含む8事例すべての行使容認が必要というスタンスは崩さない方針を示している。さらに、政府・自民党は、20日の協議会会合で「集団的自衛権で自衛隊が機雷除去をしている時に国連決議が出て、集団安全保障になったからやめるというのはおかしい」と提起して、国際連合の集団安保による武力行使も可能と閣議決定案に明記したい旨を公明党に提案し、ハードルをさらに上げた格好だ。

 集団安保での武力行使は、自衛以外の目的でも海外での武力行使を解禁することを意味するだけに、自衛隊による海外での武力行使が際限なく広がるとして、公明党は強く反発した。このため、公明党への配慮や、集団的自衛権の憲法解釈見直しに関する合意を優先すべく、シーレーンでの自衛隊による機雷除去活動を国連の集団安全保障措置として認めるか否かについての結論を先送りする方向で調整している。

 

 集団的自衛権の行使容認をめぐる政府・自民党と公明党の攻防は、大詰めを迎えている。24日に開催される協議会会合では、最終的な閣議決定文案が示される予定で、文言修正など詰めの作業を行うこととなっている。

 政府・自民党は、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更を含む安全保障法制整備に関する閣議決定案について、今週中にも公明党と合意したい考えだ。協議が調えば、安倍総理・自民党総裁と山口公明党代表による党首会談で正式合意のうえ、7月1日の閣議で決定することをめざしている。安倍総理は、7月6~12日に安全保障協力を深めるオーストラリアなど3カ国を訪問する予定で、遅くともその直前の定例閣議(7月4日)までには決定したいとしている。

 ただ、公明党内では、依然、集団的自衛権の行使容認そのものに慎重・反対論があり、意見集約が難航している。このことから、与党合意が来週以降に先送りされる可能性もありそうだ。

 

 

 集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更などの閣議決定案について、今週中の与党合意・7月1日の閣議決定を視野に、最終調整が加速している。閣議決定後には、野党側の求めに応じて閉会中審査を開催して、与野党の議論を行うこととなるだろう。大きなヤマ場を迎えているだけに、政府・自民党と公明党による水面下の駆け引きも含め、どのように合意形成を図るかきめ細かくみておいたほうがいいだろう。

高橋洋一・株式会社政策工房 代表取締役会長】 

 産業競争力会議で、労働時間規制が議論されていたが、マスコミの馬鹿げたネーミングによって、有益な議論ができなかった。

 それがはっきりでたのは、6月4日(水)の衆院厚労委員会だ。民主党の柚木道義議員は、「生産性が上がる素晴らしい制度と言うなら企業だけでなく公務員にも残業代ゼロ制度を導入すべき」と質問し、政府側は、「国家公務員は労働基準法の適用除外。産業競争力会議で議論するつもりはない」と答弁した。

 情けないことに、民主党議員は、産業競争力会議で民間議員から提案された「ホワイトカラー・エグゼンプション」を「残業代ゼロ」と思い込んでいた。

 「ホワイトカラー・エグゼンプション」とは、正確にいえば、いわゆるホワイトカラー労働者に対して、週40時間が上限といった労働時間の規制を適用しないなどの労働規制、つまり労働基準法の適用除外制度だ。その場合、残業という概念がなくなるので、残業代ゼロというのは正しい表現ではない。その代わりに、一定の成果報酬だ。

 欧米ではこうした労働規制の適用除外がある。欧米における適用除外対象者の労働者に対する割合は、アメリカで2割、フランスで1割、ドイツで2%程度といわれている。日本では、民間への制度としては未導入である。
 ところが、日本でも、国家公務員については、この国会答弁のとおり、労働基準法の適用除外になっている。しかし、「残業代はゼロ」でない。

 実態としても、国家公務員は、労働基準法の適用除外だが、国家公務員の残業代は残業時間にリンクしない形で、満額ではないものの残業予算を配分することで支払われている。要するに、「ホワイトカラー・エグゼンプション」を残業代ゼロというのは、まったく正しくないのだ。

 この民主党議員の質問のように、国家公務員に対して「残業代ゼロ」を導入すべきと質問すると、国家公務員の残業代をゼロにできないので、答えは「ノー」だ。しかし、政府がこう答えると、民主党議員は、国家公務員には残業代を払って民間には残業代ゼロにするのか、と誤解に基づき怒り出すだろう。だから、政府はまとも答弁できない。
 もし、国家公務員に対して「ホワイトカラー・エグゼンプション」を導入すべきと質問すれば、「すでにそうなっている。ただし、残業代はゼロでない」と答えられる。

 そうした稚拙な議論が行われた中で、厚労省は、民間議員の「ホワイトカラー・エグゼンプション」に反対であったが、民間議員提案の対象をより絞って一部で容認に転じた。具体例として、成果で評価できる世界レベルの高度専門職をあげた。それ以外については、以下に述べる現行制度の「裁量労働制」で対応したいとしている。

 日本では、民間で「ホワイトカラー・エグゼンプション」はないが、それに類するものとして「裁量労働制」がある。この制度は、労働時間概念は残っていて、実労働時間に関わらず、みなし労働時間分の給与を与える制度だ。いくら働いても残業時間が増えるわけでない。

 この対象になっている労働者は、専門業務型といわれる①研究開発、②情報処理システムの分析・設計、③取材・編集、④デザイナー、⑤プロデューサー・ディレクターなど19業種(労働基準法38条の3)と企画業務型といわれるホワイトカラー労働者(労働基準法38条の4)で、労働者に占める割合は8%程度だ。

 ただし、制度の運用は、厚労官僚のさじ加減ひとつであり、はっきりしない部分が多く、使い勝手が悪い。こうした意味で、「ホワイトカラー・エグゼンプション」と「裁量労働制」は似て非なるモノだ。皮肉を込めていえば、「裁量労働制」とは、労働者の労働時間の「裁量」ではなく、厚労官僚の「裁量」を尊ぶ制度だ。「ホワイトカラー・エグゼンプション」には、厚労官僚の裁量の余地はまったくない。

 この論争は、はじめは黙っていた厚労省が打ち出した、わずかな「ホワイトカラー・エグゼンプション」と、その他については「裁量労働制」で決着がついた。

 「ホワイトカラー・エグゼンプション」の対象は年収1000万円以上。年収1000万円以上の割合について、国税庁による2012年の民間給与実態統計調査結果をみると、3.8%しかいない。しかも、この数字は、会社役員をも含む数字であるので、労働者に対する割合はもっと低く3%程度だろう。いずれにしても、「裁量労働制」の8%よりも少ない数字だ。

 これまでの民間の労働時間規制の緩和について、でてきた結論を言えば、「ホワイトカラー・エグゼンプション」3%、「裁量労働制」8%、残り92%には、残業代うんぬんはまったく関係のない話だった。

 マスコミが「残業代ゼロ」とのネーミングで、煽り報道がなされた時、厚労官僚は、労働基準法の適用除外という意味で、残業代ゼロでないというべきだった。その一番の好例は、国家公務員である。国家公務員は実意は労働基準法の適用除外である。しかし、残業代は残業時間にリンクしない形で、満額ではないものの残業予算を配分することで支払われている。要するに、適用除外を残業代ゼロというのは、ミスリーディングなのだ。

 ところが、厚労官僚はそうした説明を行ったフシはない。こんな話は国家公務員であれば、誰でも知っていることであるが、マスコミ報道はない。

 なぜ、厚労官僚は残業代ゼロといわなかったのか。官僚の習性として、自己の権限を確保しようとするので、自分の所管法律の適用除外は本能的に避けようとする。そこで、産業競争力会議の民間議員が、欧米並みの適用除外を求めてきたときに、残業代ゼロと誤解されれば、国民からの範囲が強くなることを予見できるので、残業代ゼロというネーミングを放置したのだろう。

 そして、最後のタイミングで、厚労省の庭先である「裁量労働制」を持ち出して、少しだけ官邸の顔をたてて、「ホワイトカラー・エグゼンプション」をアリバイ作りで行った。

 労働時間規制の議論の勝者は、産業競争力会議の民間議員や労働者でもなく、厚労官僚だ。「ホワイトカラー・エグゼンプション」を限りなく少なくして、その不満は裁量労働制で拾っている。「裁量労働制」は、労働者の労働時間の「裁量」ではなく、厚労官僚の「裁量」を尊ぶ制度だ。一方、「ホワイトカラー・エグゼンプション」には、厚労官僚の裁量の余地はまったくない。厚労官
僚の裁量は、今回の議論で確保されている。

 今回の「ホワイトカラー・エグゼンプション」を年収1000万円以上とすることを、蟻の一穴という人がいれば、法律の素人で的外れだ。適用除外なので、今後の広がりは少ない。

 これは「ホワイトカラー・エグゼンプション」と「裁量労働制」の違いによる。それぞれの対象を拡大するためには、「ホワイトカラー・エグゼンプション」では法改正、「裁量労働制」は省令でできる。当然のことながら、法改正のほうがハードルが高い。なお、対象は、「ホワイトカラー・エグゼンプション」では年収基準、「裁量労働制」は厚労官僚の決める業種である。

 いずれにしても、むしろ今回の議論で対象となっていない「裁量労働制」は、厚労官僚の裁量によって、今後とも広がる可能性がある。残業代ゼロという92%の労働者には無関係なアバウトな言葉を使わず、「ホワイトカラー・エグゼンプション」ではなく「裁量労働制」に注意すべきだ。

 今回の決着は、民間労働者に対してのもので、相変わらず国家公務員は労働基準法の適用除外だ。今回の議論で勝利した厚労官僚に対しては「ホワイトカラー・エグゼンプション」なのに、民間にはほんのわずかだけしか認めないのは、さぞかし「ホワイトカラー・エグゼンプション」はおいしいのだろう。ここでも官尊民卑なのだろうか。 
 

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