政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

【1億総活躍国民会議、初会合を開催】

 先週10月29日、安倍総理が新たな看板政策として打ち出した1億総活躍社会を実現するため、関係閣僚・民間議員らが具体策を検討する「1億総活躍国民会議」の初会合が開催された。議長の安倍総理は「(新三本の矢で)明確な的の設定を行った」と強調したうえで、「それぞれ希望がかない、生きがいを持てる社会をつくりたい。省庁の枠組みを超えて、従来の発想にとらわれない新たな案を取りまとめていただきたい」と要請した。

 民間議員からは、検討課題として外国人の介護人材の活用拡大(榊原定征・日本経団連会長)や、若年者の就職支援(増田寛也・日本創成会議座長、元総務大臣)、結婚・出産を機に離職した女性の再就職促進のための環境整備(菊池桃子・戸板女子短大客員教授)のほか、結婚支援、出産・育児に関する相談機関の設置、社会保障費の抑制に向けたスポーツ振興の重要性などが提起された。また、財政健全化の方針を維持しつつ歳出改革や社会保障の重点化・効率化などを進め、少子化対策や介護問題に対応する固定的な財源を確保することが必要(三村明夫・日本商工会議所会頭)との意見も出た。

 

 国民会議では、11月末の緊急対策(第一弾)とりまとめや、中長期的な総合的対策と2020年までの具体的工程表からなる政策パッケージ「日本1億総活躍プラン」を来年春ごろまでに策定する方針を決めた。また、新3本の矢のうち、名目GDP(国内総生産)600兆円の達成をめざす「強い経済」関連は、甘利経済再生担当大臣が所管する日本経済再生本部や経済財政諮問会議などで提言をとりまとめる方向も確認した。国民会議は、緊急対策のとりまとめに向け、3回程度の会合開催や、若者へのヒアリング実施を予定している。

緊急対策には、経済施策や、若者の就労支援策などを盛り込む方針だ。「希望出生率1.8」関連では、保育所に入れない待機児童を解消するための保育所整備などを検討する。「介護離職ゼロ」関連では、特別養護老人ホームなど介護施設や在宅サービスの整備・充実、介護人材の確保、介護者1人につき最大93日までの介護休業中に支払われる「介護休業給付金」(現在、休業前賃金の40%)の引き上げなどを検討されている。このうち、介護休業給付金の引き上げは、2日の厚生労働省・労働政策審議会部会で労使代表が大筋で了承された。介護休業給付金の引き上げは、育児休業(休業前賃金の67%)との差を縮めるねらいから、50%・60%・67%のいずれかにするという。また、介護休業を取得しやすくするため、原則1回の介護休業を分割取得できるようにすることも検討されている。厚生労働省は、改正法案を来年の通常国会に提出することを念頭に、引き上げ幅など詳細を年末までに決定するようだ。

 

ただ、緊急対策とりまとめ期間が1カ月弱と少ない。幅ひろい意見を反映したり、新たに政策づくりをしたりすることが難しく、関係省庁は、既存政策や概算要求ではじかれた政策などを持ち寄るなどして調整作業を進めているようだ。このことから、緊急対策が「従来の政策の寄せ集めになりかねないのではないか」、「(来年7月25日に任期満了を迎える参議院選挙を念頭に)見栄えする対策が優先されるのではないか」との見方も出始めている。規制改革や歳出改革といった痛みを伴う改革も含め、根本的な問題解決に資する政策や実効性のある政策をどこまで打ち出せるかはいまのところ不透明だ。

このほか、政府は、「活力あふれる超高齢化社会の実現に向けた取組に係る研究会」などを新たに設置し、高齢者の知識・経験・技術・技能などを社会に活かすための施策や、高齢者が元気に暮らせる環境の整備などを検討していく予定だ。具体的な検討課題として、定年後の再就職先や社会貢献活動などを紹介する仕組みや、健康を維持する医療・介護サービスの充実などがあがっている。

 

 

【農林水産省、TPP影響分析を発表】

日米など交渉参加12カ国が大筋合意した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)で、生産者などの間で不安が広がっていることから、農林水産省は、関税撤廃・引き下げなどによる農林水産物への影響を分析した。そして、29日、米麦や甘味資源作物、一部の野菜・果実など21品目への影響に関する分析結果と、影響を抑える対策の方向性について発表した。農林水産省は、これら21品目を含む約40品目の影響分析を進めている。

 日本政府が外国産米の輸入を一元管理する「国家貿易制度」や関税を維持したコメは、多くの例外措置を確保したとして「新設する輸入枠(米国・オーストラリアに計7.84万トン)以外の輸入増大は見込み難い」と予測している。ただ、今後、新設の輸入枠で国内の米の流通量が増えれば、国産米全体の価格水準が下落することが懸念されるとして、備蓄制度の見直しなど国産主食用米生産への影響食い止めや、さらなる競争力強化が必要とした。同じく国家貿易制度や関税が維持される小麦や大麦も、新設の輸入枠分が現行のカレントアクセスによる輸入の一部が置き換わるのが基本であり、国産小麦に置き換わるものではないとして、「輸入の増大は見込み難い」と分析している。ただ、マークアップ(輸入差益)の削減に伴う輸入麦の価格下落で、国産小麦の販売価格に影響を及ぼす懸念がある点を考慮して、競争力強化や国産の安定供給に向けた環境整備が必要とした。

 

 糖価調整制度が続く砂糖は、「テンサイやサトウキビの生産に特段の影響は見込み難い」としつつも、砂糖代替品となりえるココア粉など「加糖調整品」は品目ごとに計9.6万トンの輸入枠が設定されるため、安価な加糖調整品の流入で、糖価調整制度の安定運営に支障が生ずる懸念があると指摘した。糖価調整制度や関税が維持されるでんぷんも、新設する輸入枠(TPP参加国対象の輸入枠7500トン)は現行の低関税輸入枠の範囲内であり、「TPP合意による影響は限定的」だとした。ただ、関税引き下げの影響は、将来的にゼロではないため、一部で低価格な外国産の輸入も懸念されるとも指摘している。

 このほか、麦芽・小豆・インゲン・ラッカセイ・パイナップル・茶・コンニャクは、価格下落の懸念を指摘しつつも、「特段の影響は見込みがたい」とした。オレンジ・リンゴ・サクランボ・ブドウ・加工原料用トマト・カボチャ・アスパラガス・タマネギ・ニンジンは国産と輸入品との時期的なすみ分けや、国産との用途の差別化などが図られているとして「TPP合意による影響は限定的」と分析した。ただ、一部の農産物で、関税の撤廃・削減による輸入相手国の変化など、長期的には価格下落なども懸念されるとしている。

 

海藻類を除く大半の品目で関税撤廃となる水産物のうち、アジ・サバ・マグロなどの主要品目は、TPP参加国からの輸入が少ないことや漁獲規制が実施されていることなどを理由に「TPP合意による影響は限定的」と分析している。ただ、長期的には国産品の価格下落も懸念されるとし、生産性向上など体質強化策の検討が必要であるとした。現行税率から15%の関税削減となるノリやワカメなど海藻は、中国や韓国からの輸入が多いことから、「特段の影響は考えにくい」とみている。加工品向けのカツオ・キハダマグロ・冷凍ベニザケなどの一部品目は、国産品と輸入品の競合が懸念されると指摘した。

牛肉・豚肉、乳製品などへの影響分析結果は、11月4日にも公表される。牛肉・豚肉は、関税削減を長期間で行うことや緊急輸入制限(セーフガード)を確保したことを挙げて、輸入の急増は当面考えにくいとするようだ。ただ、長期的には国産品の価格下落も懸念されるため、体質強化策やコスト削減などの検討が必要となりそうだ。乳製品は、バターや脱脂粉乳のTPP参加国向け輸入枠の規模が、近年の追加輸入実績の範囲内であるとして「無秩序に輸入されることはなく、乳製品全体の国内需給への悪影響は回避の見込み」となるようだ。

 

 政府は、こうした影響分析の結果などを踏まえ、11月25日にも関連対策大綱をとりまとめる。政府は、農業分野への影響を最小限にするため、国内農業の体質・競争力の強化などによる「攻めの農業」と、セーフティーネットの拡充と農家の経営安定化を進める「守りの農業」の両輪から検討していく方針で、農業生産の中核となる担い手の育成、農地集約による規模拡大、農林水産物の高付加価値化、輸出促進などに取り組む考えだ。

また、自民党や公明党は、政府の対策大綱への反映をめざして、農林水産業対策を中心に知的財産や環境など幅ひろい分野の総合対策を盛り込んだ提言を、それぞれ11月20日までにとりまとめ、政府に申し入れる方針でいる。29日に開かれた自民党TPP総合対策実行本部の初会合で、本部長の稲田政調会長は「金額ありきの議論ではなく、強い農業をつくり、地方創生や経済再生につながる議論をしていく」と、バラマキと批判されないよう、安易な予算膨張を抑え込み、攻めの農業に重点を置いた提言をまとめる方針を示した。ただ、自民党内には、参院選への影響を回避するため、生産者保護策など従来型の財政出動を求める声も根強い。また、「バラ色の説明で具体的な経済効果が分からない」「生産者の納得が得られにくい」などと詳細な説明を求める声も相次いでいる。実行本部には、農水族の実力者らもおり、補正予算案や来年度予算案の編成をにらんだ綱引きが激しくなっていきそうだ。

 

 

【補正予算案も編成へ】

 安倍総理は、1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策やTPPの大筋合意を受けた国内対策の一部を先行して実施する費用のほか、災害対策などを盛り込んだ今年度補正予算案の編成を11月中に指示する。これを受け、11月下旬にまとまる緊急対策や対策大綱にもとづき、年末までに補正予算案の詳細を詰める。

1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策として、介護人材の育成などに向けた基金の積み増しや、介護施設や保育所を拡充するために国有地の安価な貸し付け、3世代同居を促すための住宅補助などがあがっている。政府が目玉と位置付けている「新たな子育て支援パッケージ」(0.1兆円規模の予定)は、来年度予算案に計上するようだ。TPPの大筋合意を受けた国内対策として、農林水産品の海外輸出を支援する施策や、来年度予算案の概算要求で農林水産省が増額を要求した農業農村整備事業の一部前倒しなどが検討されている。災害対策関連では、9月の関東・東北水害の復旧や河川整備に重点的に置いた災害対策などを盛り込む。

 

補正予算案は、総額3兆円以上の規模となる見通しで、昨年度決算剰余金(1.57兆円)の一部や、消費税や所得税など今年度予算の税収上振れ分などを、補正予算案の財源に充てる。財政再建への懸念が強まることを避けるため、3兆円台半ば以内なら国債の追加発行なしでも可能と判断したようだ。

ただ、内閣府が11月16日に発表する今年7~9月期国内総生産(GDP)速報値で、景気停滞・悪化が顕著となれば、景気下支えのための経済対策を追加で盛り込み、補正予算案の上積みすべきとの声が政府・与党内から強まる可能性がある。いまのところ、麻生副総理兼財務大臣は「雇用や所得環境は着実に回復基調にある」として現時点で景気対策は不要との立場を崩していない。財務省もバラマキ批判を受けかねないとして慎重姿勢だ。一方、与党内からは、低所得者に数万円を給付する案など個人消費の喚起策を求める声も出ている。このため、安倍総理は、速報値などを見極めたうえで、補正予算案の規模などを判断するようだ。

 

 政府内では、来年度予算案の編成に関する議論も本格化している。麻生大臣の諮問機関である財政制度等審議会は、11月下旬をメドに歳出抑制の具体策を盛り込んだ建議(意見書)を取りまとめるため、30日に財政制度分科会を開き、来年度予算案の編成に向けた議論をスタートさせた。麻生大臣は「財政健全化計画の成否は、2016年度予算に懸かっている。社会保障をはじめ歳出改革を具体化していく必要がある」と、来年度予算が2020年度に基礎的財政収支の黒字化をめざす財政健全化計画の初年度にあたり、一般会計の3割超を占める社会保障関係費の抑制・抜本的見直しなど歳出改革が予算編成の論点だと強調した。

財務省は、主要焦点となる医療サービスなどの公定価格「診療報酬」の引き下げを主張している。診療報酬の本体部分(医師・薬剤師の技術料)が賃金・物価動向に比べて高く、増額も続いていることから、マイナス改定を求めた。また、薬剤師が過去の処方歴に応じて患者にきめ細かな服薬指導ができる「かかりつけ薬局」を優遇し、薬の使い過ぎを抑制するため、指導の充実度に応じて調剤報酬を算定するしくみの導入など、ゼロベースの見直しを提案している。さらに、医薬品の値段などの薬価も後発医薬品(ジェネリック薬)の普及などに伴う市場動向を反映してマイナス改定とすることや、特許が切れた先発薬(新薬)の薬価引き下げ、処方箋なしでも買える市販品類似薬を保険適用外とすることのほか、将来的には安価な後発薬の価格までしか保険適用を認めず、特許切れ先発薬との差額を自己負担とすることなども提案している。

 

こうした改訂案を財政制度分科会に提案し大筋で了承をえた財務省は、11月中に診療報酬の引き下げ幅を固め、厚生労働省に求めていく方針だ。しかし、厚生労働省は、医療の質の低下を警戒して引き下げに慎重で、参院選への影響を懸念する自民党の厚生労働族らの激しい抵抗も予想される。年末にかけて、厚生労働省との調整が難航しそうだ。

 このほか、リーマン・ショック後に地方の景気対策として導入された雇用対策事業などの予算枠「歳出特別枠」(2015年度予算約0.85兆円)の廃止・縮減を総務省に、地方創生の取り組みを後押しするために経費を積算せずに一括で歳出枠を確保している「まち・ひと・しごと創生事業費」(2015年度予算1兆円)の使途に関する事後検証を内閣官房に、公立小中学校の教職員定数を9年間で約3.7万人の削減を文部科学省にそれぞれ求める方針を固めている。所管する省や諮問機関、地方自治体などがそれぞれ強く反発しており、今後、調整が難航しそうだ。 

 

また、政府の行政改革推進会議は、歳出のムダ削減を図るため、原子力発電を含むエネルギー・地球温暖化対策事業や、2020年東京オリンピック・パラリンピック便乗事業など、8府省の計55事業<来年度予算案での概算要求総額13.6兆円>を点検・検証する「行政事業レビュー」を実施する。行政事業レビューを11月11~13日に実施し、その内容をインターネットで中継する。

エネルギー関連では、日本原子力研究開発機構の運営費交付金、所管するトラブルが相次ぎ運転停止中の高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)や運用実績のないまま維持管理費がかさんでいる使用済み核燃料輸送船、石油の国家備蓄施設の管理委託費などを取り上げる。2020年東京オリンピック・パラリンピックに便乗した事業とみる文部科学省所管の日本スポーツ振興センター運営費交付金の必要経費(163億円)や、全国各地で文化プログラムを推進する文化庁のリーディングプロジェクト推進費(13億円)などだ。このほか、国際宇宙ステーションやスーパーコンピューターの後継機開発費も対象となっている。「検証結果を財務省の予算査定に反映させてほしい」(河野太郎・行政改革担当大臣)として、来年度予算案での縮減を求めていく方針だ。

 

 

【軽減税率の対象・財源をめぐって与党協議が平行線】

2017年4月に消費税率10%への引き上げに伴って負担緩和策として、飲食料品・生活必需品の消費税率を低く抑える「軽減税率」の導入をめぐっては、自民党と公明党が、27日に与党税制協議会・軽減税率制度検討委員会(座長:宮沢洋一・自民党税制調査会長)を開き、具体的な制度設計に向けた議論を再開させた。

与党協議では、消費税率引き上げ時に混乱なく軽減税率を導入するとの認識を共有したうえで、11月中旬にも大筋合意することをめざすことで一致した。また、事業者の事務負担軽減策として、まず公明党が提案している現行の帳簿や請求書に軽減税率の対象品目に印を付ける「簡易な経理方式」でスタートし、将来的には複数税率で事業者が品目ごとに税率・税額を明記する「インボイス方式」へ移行することも確認した。

 

 医療・介護や保育などの自己負担の合算額に上限を設定し上限を超えた分を国が給付する「総合合算制度」の実施を見送ることで捻出できる年4000億円程度を、軽減税率導入に伴う穴埋め財源とすることでは一致した。しかし、軽減税率の導入に伴う税収減をこの範囲内にとどめたい自民党・財務省と、「痛税感を緩和する意味では、幅ひろい品目を対象にすべき」であり、税制全体で穴埋め財源を捻出する方策を模索していく必要があると訴える公明党との主張の隔たりが改めて浮き彫りとなった。

自民党と財務省は、軽減税率の導入当初は、対象品目を精米(税収減400億円)などに絞り込み、残る3600億円分を住民税が課税されない低所得者への現金給付に充てる。次年度以降、段階的に生鮮食品(税収減約3400億円)まで対象をひろげていく案を想定している。これに対し、公明党は、対象品目を「酒を除く飲食料品(外食含む)」(税収減1.3兆円)や、「生鮮食品と加工食品」(税収減約1兆円)を主張している。これらの穴埋め財源として、総合合算制度の実施見送りに加え、軽減税率導入までの臨時措置として低所得者に現金を配る簡素な給付措置分をあわせた計約8000億円の財源案を示した。さらに、たばこ税増税などで上乗せして、1兆円分をめざす考えだ。

 

 29日と30日に開かれた与党協議でも対象品目と穴埋め財源について協議したが、自民党が、簡素な給付措置は軽減税率実施後に廃止すること前提とした措置で「安定財源にならない」うえ、社会保障制度の安定・充実と財政再建の両立をめざす社会保障・税の一体改革で増税分5%の税収をすべて社会保障分野に充てるとともに、一体改革の枠内で低所得者対策を行うことが基本で「社会保障と税の一体改革や財政再建のフレームを変えるような財源は使わない」(宮沢調査会長)として、4000億円程度からの上積みは事実上困難との認識を改めて示したため、両党の主張の隔たりは埋まらなかった。いまのところ、自民党も公明党も譲歩する姿勢をみせておらず、決着できる糸口を見出すには至っていない状況だ。

 

 2016年度税制改正のうち、軽減税率の制度設計の議論を優先して取り組んでいるため、ビール系飲料の酒税見直しや自動車関連税制などの税制改正協議は、いまのところ停滞したままだ。軽減税率の制度設計をめぐって与党協議が平行線をたどっているうえ、参院選を前に支持団体と衝突する恐れから税制改正論議を可能な限り先送りすべきとの意見が与党内で高まっていることもあり、関係団体との調整が難しい案件を中心に、税制改正を先送りとなる可能性も高まっている。

税制改正論議の主要焦点のうち法人実効税率(国・地方)については、政府がさらなる引き下げを行う方向で検討に入った。2016年度に32.11%から31.33%に引き下げることが決まっているが、経済再生や企業の国際競争力向上の観点から、穴埋め財源を捻出して30%台後半まで引き下げ幅を拡大することをめざしている。税収減の穴埋め財源をどのように確保し、政府目標の20%台への引き下げに向けた具体的道筋を同時に示すことができるかが今後の焦点となりそうだ。

 

 

【閉会中審査での議論に注目を】

 安倍総理は、臨時国会を召集するか否かについて「まだ何も決まっていない」としつつも、「1億総活躍の策定や経済、財政に万全を期すことが必要」「来月以降、国際社会にとって重要な会議が目白押しだ。来年度の予算編成も進めなければならない。こうした事情も考慮しながら最終的に決定したい」「要請されてから実際に召集するまでかなりの日程を要した例もあり、合理的な期間内に通常国会を召集した例もある」と慎重姿勢を示している。これに対し、野党側は、通常国会の前倒しよりも臨時国会を召集すべきだと主張し、政府・与党の臨時国会見送り方針を批判している。

 このようななか、野党が要求した閉会中審査が10日に衆議院予算委員会で、11日に参議院予算委員会でそれぞれ行われる予定だ。閉会中審査では、野党がどのような観点から政府側を問い質し、安倍総理はじめ関係閣僚からどのような答弁を引き出すのだろうか。閉会中審査でどのような議論が展開されるのかに注目しておきたい。
 

【野党5党、臨時国会召集を要求】

 先週21日、民主党・維新の党・共産党・社民党・生活の党の代表者が衆参両院の議長と会い、「衆議院か参議院のいずれかの4分の1以上の議員が要求した場合、内閣は召集を決定しなければならない」と規定する憲法第53条にもとづき、野党・無所属議員(衆議院125人、参議院84人)が連名した安倍総理宛ての臨時国会召集要求書を提出のうえ、政府が臨時国会を召集するように申し入れた。

要求書では、「新閣僚に所信をただしていく必要がある」として内閣改造に伴う新閣僚からの所信聴取と質疑の実施や、日米など交渉参加12カ国で大筋合意した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の経緯説明とその質疑を臨時国会で行うべきとしている。また、安倍内閣との対決姿勢を鮮明にしたい野党側は、マイナンバー制度に絡む厚生労働省の汚職事件の真相解明と再発防止策、安全保障法制、米軍普天間飛行場移設、原発再稼働なども審議が必要と主張する。

 

 大島衆議院議長は、野党要求が憲法規定の要件を満たしているとして「立法府の使命もある。しっかり受け止めて政府にお伝えしたい」と応じた。その後、大島議長は、菅官房長官や与党国会対策委員長に対応の検討を要請した。

ただ、憲法第53条には召集期限が規定されておらず、開会するか否かは内閣の最終判断に委ねられている。政府側は「与党ともよく相談して決定したい」(安倍総理)としつつも、「安倍総理の外交日程を優先せざるを得ない事情や、年末の予算編成も考慮しなければならない」(21日菅官房長官会見)と、臨時国会の召集に慎重姿勢を示した。政府・与党は、今月下旬から来月末まで安倍総理の外交日程が立て込んでおり、来年度予算案の編成作業が本格化する12月中旬までの間に十分な審議時間も確保できないことから、野党が要求したTPPなどに関する閉会中審査を11月10日に衆議院予算委員会で、11日に参議院予算委員会で行うことにより、臨時国会の召集を見送りたい考えだ。

 

これに対し、民主党は「(憲法第53条に)日付が書いてないから2カ月間、開かなくていいとはならない。先延ばしは憲法違反」(岡田代表)、「逃げていると言わざるを得ない。1カ月以内に召集しないなら、憲法無視の違憲内閣だ」(枝野幹事長)、「議論すべき多くの課題にふたをして逃げることはあってはならない」(高木国対委員長)などと非難している。政府・与党を「逃げ腰」「憲法軽視」などと批判して世論に訴えることで、安倍内閣のイメージダウンにつなげたいようだ。

野党側は、農産物の重要5項目(米、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖)のうち加工品などを約3割(174品目)が関税撤廃となっていることから、重要5項目の保護と国民への十分な情報提供などを求めた2013年国会決議に違反していると非難している。特に、牛・豚肉などは関税が大幅に引き下げられ、輸入急増時に関税を引き上げる緊急輸入制限(セーフガード)の発動がないまま一定期間を過ぎれば関税が撤廃される。民主党は「経済連携調査会」を党内に設置して、TPP交渉の結果が国益や国会決議に反していないかなどの問題点検証を進めている。また、政治とカネ疑惑が浮上した森山農林水産大臣や馳文部科学大臣、公職選挙法違反(寄付行為)にあたる可能性が指摘されている島尻沖縄及び北方担当大臣ら新閣僚の資質問題も徹底追及する構えもみせている。こうした問題を閉会中審査で追及するとともに、世論をテコに臨時国会の召集を実現していきたい考えだ。

 

 政府・与党は、閉会中審査での議論や世論の動向などを見極めたうえで、臨時国会を召集するか否かの最終判断をする。ただ、臨時国会の召集を見送る方針で、その代わりに通常国会の召集を例年の1月後半から前倒しする方向で調整に入っている。

通常国会では、TPPの大筋合意を受けた国内対策や1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策などを盛り込んだ今年度補正予算と、来年度予算を早期に成立・執行するとともに、TPPの国会承認や重要法案の成立などに万全を期したい考えだ。ただ、来年7月25日に任期満了を迎える参議院選挙が控えており、通常国会の会期を大幅延長することが難しい。このことから、臨時国会の召集を1月4日にする案が浮上している。選挙戦の準備にも余裕を持って対応できることや、野党の「逃げ腰」批判をかわす狙いもあるようだ。

 もっとも、民主党など野党側は、通常国会の前倒しよりも臨時国会を召集すべきと主張している。衆参両院の予算委員会での閉会中審査後も、与党側に審議要求を行う可能性が高い。与党は、野党側がさらなる要求を行えば、農林水産委員会・経済産業委員会などの連合審査で閉会中審査に応じることも含め柔軟に対応するようだ。

 

 

【1億総活躍国民会議、29日にも初会合】

23日、政府は、安倍総理が新たな看板政策として打ち出した1億総活躍社会を実現するための具体策を検討する「1億総活躍国民会議」の構成メンバーについて閣議決定した。国民会議の議長には安倍総理が、議長代理には加藤勝信・1億総活躍担当大臣がそれぞれ務め、閣僚11人と民間議員15人が参加する。

 

 このうち民間議員は、経済政策・財政分野から高橋進・日本総合研究所理事長や、土居丈朗・慶應義塾大学教授を、雇用・労働分野から樋口美雄・慶應義塾大学教授や、菊池桃子・戸板女子短大客員教授(仕事と子育ての両立、女性のキャリア形成)を起用した。経済界と連携して働き方改革などを進めるねらいから、榊原定征・日本経団連会長や三村明夫・日本商工会議所会頭を加えた。また、地方創生関連では、有識者団体「日本創成会議」の座長として人口減少問題の提言を行っている増田寛也・元総務大臣が入った。

 このほか、結婚・子育て・教育分野では、少子化ジャーナリストの白河桃子氏や、松本理寿輝・まちの保育園代表、宮本みち子・放送大副学長が、若者の就労支援では工藤啓・NPO法人育て上げネット理事長が参加する。高齢者・介護分野として飯島勝矢・東京大高齢社会総合研究機構准教授と対馬徳昭・社会福祉法人ノテ福祉会理事長、障害者支援分野として大日方邦子・日本パラリンピアンズ協会副会長と、松為信雄・文京学院大教授が加わる。

 

加藤大臣は、民間議員のメンバー構成について、1億総活躍関連分野に精通する各専門家や実務者らを幅ひろく起用するとともに、可能な限り年代や男女のバランスを取った点を強調したうえで、「それぞれ違う切り口で、新たな視点に立った議論が進むと期待している」と説明した。政府内での議論重複を避ける観点から、経済財政諮問会議など政府の有識者会議メンバーを務める7人が兼務での起用となった。

 経済再生や地方創生、雇用・労働、社会保障など1億総活躍社会の実現に係る政策課題が広範囲に渡っており、他の所管とも重複する部分も多い。そのうえ、他の有識者会議と兼務ではないメンバー8人のうち6人も省庁の審議会などに関わったことのある経験者で、国民会議での議論が従来の焼き直しにとどまるのではないかといった懸念の声も出ている。加藤大臣は「これまでやってきた政策、やろうとする政策を横串でみながら議論する」と、省庁横断さらにそれを超越して多角的に政策課題を検討し、実現に向けて着実に取り組んでいくことが重要だと強調した。

 

 国民会議は29日にも初会合を開く。安倍総理が掲げた(1)名目GDP(国内総生産)600兆円、(2)希望出生率1.8、(3)介護離職ゼロの「新3本の矢」を踏まえ、11月末にも決定する緊急対策(第一弾)の内容を検討する。緊急対策のうち、新3本の矢の1矢目「強い経済」関連については、日本経済再生本部や経済財政諮問会議など「既存会議の議論を反映させていく」(加藤大臣)ようだ。

介護を理由に仕事をやめる介護離職者(年間約10万人)を減らす、新3本の矢の3矢目「介護離職ゼロ」に向けては、地価の高い首都圏などで不足している特別養護老人ホームなど介護施設を増やして、介護職員の需要を喚起する。具体的には、事業者による整備負担の軽減を図るため、国・地方の補助金制度とともに、国家公務員宿舎の跡地約90カ所を選定して介護施設を運営する社会福祉法人へ優先的に貸し出す案(原則50年の定期借地権を設定して賃料でも優遇)が浮上している。

 

 自民党は、政府の国民会議と並行して、子育て支援策や介護休業制度の充実などの緊急対策をとりまとめ政府に提言するため、23日の党総務会で「1億総活躍推進本部」を安倍総裁直属の党内機関として設置することを決めた。本部長には、逢沢一郎・元国対委員長・衆議院国家基本政策委員長を充てた。加藤大臣は、自民党の稲田政調会長と会談し、党内議論の日程などの意見交換を行った。短期間で緊急対策を検討のうえ取りまとめることとなるだけに、加藤大臣らは目玉政策や実効性のある政策などの探しに躍起となっている。与党内からも政策案や要望を受け付けるようだ。

 

 

【与党、TPP国内対策の検討作業に着手】

 TPP交渉の大筋合意を受け、政府は、TPPに伴う国内法の改正事項の整理や、国内対策の検討作業を進めている。TPPに伴う国内法の改正事項は、関税変更や関税の優遇条件を定めた原産地に係わる関連法、知的財産(特許や商標、著作権)関係などにとどまる見通しだ。懸念されている輸入食品の安全基準は、関係各国が世界基準より厳しくできる世界貿易機関(WTO)の協定を踏まえたものとなっており、検疫などは「制度変更が必要な規定はない」ほか、食品表示も「(遺伝子組み換え食品の扱いを含め)現行制度の変更はない」と説明している。

 

 法改正・制度変更で不利益を被る外国企業が進出先・投資先の国を相手取って損害賠償請求できる「国家と企業間の紛争解決(ISDS)条項」については、多国籍企業の訴訟乱用により、批准各国の政策運営が阻害される事態を防ぐねらいから、提訴できる期間をその国の制度変更から3年半以内に制限されることとなった。また、医療制度など、各国政府が独自判断にもとづく規制を導入する権利を持つことや、敗訴した政府は金銭的な賠償義務を負っても制度変更を強制されないとの規定が盛り込まれている。

政府は、TPP発効後にISDS条項にもとづき外国企業から提訴があることを想定し、国際訴訟への対応の強化などを図っていく方針だ。すでに、法務省訟務局と外務省国際法局が合同勉強会を設置して過去の投資仲裁事例の研究などに着手している。外国企業が申し立てを行う場合、世界銀行傘下の投資紛争解決国際センターが主な申し立て先となるが、過去の仲裁結果をみると米国の政府・企業が勝訴するケースが増えている。このため、主に米国対策が焦点となるようだ。

 

国内対策をめぐっては、TPPによる農業分野への影響を最小限にするため、国内農業の体質・競争力の強化などによる「攻めの農業」と、セーフティーネットの拡充と農家の経営安定化を進める「守りの農業」の両輪から検討していく方針だ。具体的には、農業生産の中核となる担い手の育成、農地集約、農林水産物の高付加価値化、輸出の促進などに取り組む考えを森山大臣が示している。

また、自民党や公明党は、今週から国内対策の検討作業を本格化させる。自民党は、谷垣幹事長ら党三役や農水族の実力者らで構成する「TPP総合対策実行本部」(本部長:稲田政調会長)を設置した。実行本部の下に、具体的な農業対策などの検討を行う「農林水産戦略調査会」(調査会長:西川公也・実行本部長代理)を置き、農林部会(部会長:小泉進次郎・実行本部幹事)との合同会議を27日に開き、具体的な支援策をめぐる本格的議論をスタートした。11月7日と8日には、農業者の不安を解消・緩和するため、全国各地で説明会を開く。11月17日までに農林水産分野の対策をまとめる方針だ。公明党も「TPP総合対策本部」(総合本部長:井上幹事長、本部長:石田政調会長)を設置した。

自民党と公明党は、政府が11月25日をメドに策定する関連対策大綱や、国内対策を盛り込んだ補正予算案に反映させることをめざして、11月中旬にもそれぞれ提言を取りまとめる。具体的な検討課題として、農地中間管理機構(農地集積バンク)による農地集積や政府備蓄米の年間買い入れ量の拡大、畜産クラスター事業の拡充、肉用牛肥育経営安定特別対策事業の法制化などが浮上している。

 

 

【軽減税率の与党協議、27日から再開】

 今年12月までに2016年度与党税制改正大綱をとりまとめるため、与党は、11月下旬から税制改正論議を本格化させる。与党の税制改正議論では、法人実効税率(国・地方)のさらなる引き下げ、ビール系飲料の酒税見直し、2017年4月に消費税率10%への引き上げに伴って負担緩和策として導入する軽減税率の制度設計などが主要焦点となる見通しだ。

所得税改革や、資産課税の見直しも検討課題に浮上していたが、政府税制調査会の結論を出すのが来年夏までかかる見通しから、与党の本格議論は、来年末に延期されることとなった。所得税改革の一環として、女性の社会進出や共働き世帯の増加などを背景に、専業主婦らがいる世帯の税負担を軽くする「配偶者控除」を見直し、妻の収入にかかわらず一定額を夫の収入から差し引く「夫婦控除」を導入する方向で検討されていた。しかし、この見直しで専業主婦世帯など一部世帯が増税となるケースもあり、与党内から参院選への影響を懸念して今年の税制改正に盛り込むことに慎重論が出たため、2017年度以降に持ち越しとなった。

 

 法人実効税率の引き下げについては、2016年度に32.11%から31.33%に下がるが、経済再生や企業の国際競争力向上の観点から、財源を捻出して税率引き下げ幅のさらなる上乗せをめざすとしており、経済界などからも強い要望が出ている。一方、税収減の穴埋め財源として、給与総額など企業規模に応じて課税する「外形標準課税」(地方税)の拡大や、租税特別措置の廃止などについて検討する予定となっている。

ビール系飲料の酒税をめぐっては、麦芽比率や原料、製法などで税額が異なるため、税率格差が商品開発や販売数量に影響を与え、酒税の減収にもつながっているとして、税額幅を段階的に縮小して55円程度に一本化する方向で見直しが検討されている。ただ、参院選を前に増税イメージを避けたいとの思惑や、消費税の軽減税率の導入に関する論議に時間がかかることなどから、見送り論も浮上している。

 

 飲食料品・生活必需品などの消費税率を低く抑える「軽減税率」の導入をめぐっては、安倍総理は21日の政府・与党連絡会議で「2017年4月の10%への引き上げ時に導入が間にあうよう、中小事業者の負担にも配慮しつつ、具体案を取りまとめる必要がある」と、同時導入をめざすよう指示した。その後、宮沢洋一・自民党税制調査会長と斉藤鉄夫・公明党税制調査会長が会談し、11月中旬までに軽減税率の制度設計を進め、与党案をとりまとめるため、27日に軽減税率に関する与党税制協議会を再開することで合意した。会談では、(1)消費税率10%へ引き上げる2017年4月に軽減税率を導入することや、(2)消費税について標準税率と軽減税率の複数税率を設定すること、(3)事業者の負担に配慮、の3点を前提に議論に入ることを確認した。

 ただ、軽減税率の対象品目をめぐって、対象品目を可能な限り絞り込みたい自民党と、低所得者の負担緩和を重視する公明党に主張に隔たりがある。公明党の斉藤調査会長が「痛税感の緩和になるよう幅ひろくするべきだ」と主張し、酒を除く飲食料品(外食含む)や、酒・外食・菓子類を除く飲食料品などで1兆円前後の減収規模を求めている。公明党が主張する飲食料品には、生鮮食品、低所得者層の消費が多い傾向にある加工食品が含まれる。これに対し、自民党の宮沢調査会長は、対象品目をひろげれば社会保障に回す財源が少なくなるとして1兆円規模の税収減に難色を示した。

 

また、軽減税率導入に伴う穴埋め財源をめぐっても、隔たりがある。公明党の山口代表は「消費税だけではなく他の財源も視野に入れながら考える必要がある」と、不足する社会保障財源に消費税以外の税収を充てることも検討すべきと主張している。公明党は、1兆円規模の穴埋め財源として、たばこ税増税などの検討を提案している。「軽減税率は景気対策にもなる」(山口代表)ことから、消費の落ち込みを防ぐため、他の財源を使用することが正当化できるとしている。

これに対し、自民党は、社会保障制度の安定・充実と財政再建の両立をめざす社会保障・税の一体改革で増税分5%の税収をすべて社会保障分野に充てるとともに、一体改革の枠内で低所得者対策を行うことが基本と難色を示している。23日の党税制調査会非公式幹部会合で、一体改革の枠組みを堅持しながら軽減税率の対象品目や穴埋め財源の検討を進める方針を確認しており、医療・介護や保育などの自己負担の合算額に上限を設定し上限を超えた分を国が給付する「総合合算制度」の検討を見送って、軽減税率の財源に充てたい考えだ。これにより、年4000億円程度が捻出できる。自民党は、この軽減税率の導入に伴う税収減はこの範囲内にとどめたいとして、生鮮食品に絞り込むべきと主張している。

 

事業者の事務負担軽減策をめぐっては、自民党が経理処理方法を段階的に導入する方針を固めた。複数税率で事業者が品目ごとに税率・税額を明記する「インボイス方式」の導入は、詳細な制度設計や周知徹底、試行期間の設定と準備などに相当程度の時間を要することから、消費税10%への引き上げには間にあわないからだ。このため、まず公明党が提案している現行の帳簿や請求書に軽減税率の対象品目に印を付ける「簡易な経理方式」でスタートし、最終的にインボイス方式を導入したいとしている。

今後、与党税制協議会を舞台に、軽減税率の制度設計に向け検討・調整作業を本格化させる。自民党と公明党で主張の隔たりがある軽減税率の対象品目の線引きや、代替財源の確保などが主な焦点となる見通しだ。今年12月にとりまとめる2016年度与党税制改正大綱に軽減税率をはじめとする負担軽減策を盛り込む方針で、11月中旬をメドに大筋合意をめざしている。ただ、協議難航も予想されており、自民党・財務省と公明党の熾烈な駆け引きが今後も続きそうだ。

 

 

【閉会中審査の焦点見極めを】

11月10日と11日に、衆参両院の予算委員会で閉会中審査が行われる予定となっている。これまで、TPP交渉参加国間で協議中の内容を公表しない保秘義務がかかっていたことを理由に、政府が交渉過程・内容を明らかにしてこなかったが、大筋合意を受け、内容が徐々に明らかとなっている。もっとも、交渉参加12カ国の事務レベルで協定案の詳細な条件や文言の詰めなどの作業を行っている最中で、TPP参加各国の署名が済んでいない。また、国内対策とその予算措置も検討段階で提示されていない。

野党側は、検証作業などを進め、まずは閉会中審査でTPPの交渉過程と大筋合意内容を明らかにしたいとして政府側を問い質す方針だが、どこまで明らかとなり、十分な審議ができるかはいまのところ不透明だ。閉会中審査での議論や野党側の対応などによっては、短期間でも臨時国会の召集が余儀なくされる場合もありうる。閉会中審査でどのような議論が展開されるかを見極めるためにも、ひとまず主要課題それぞれの焦点と各党主張を抑えながら、政策動向をみていったほうがいいだろう。


【1億総活躍国民会議、今月にも設置】

先週15日、政府は、安倍総理が新たな看板政策として打ち出した「1億総活躍社会」の実現に向けた具体策づくりに着手するため、1億総活躍国民会議の事務局機能を担う実動部隊「1億総活躍推進室」を内閣官房に設置した。

司令塔として関係省庁間の総合調整などを行う加藤勝信・1億総活躍担当大臣を機動的に補佐するため、推進室長には杉田官房副長官(事務)、室長代理には古谷官房副長官補を充てた。専従の実務責任者となる室長代理補には、少子化・高齢化対策や雇用などを重視して、厚生労働省の木下前官房審議官を任命した。専従職員は、内閣府・厚生労働省・文部科学省・経済産業省から地方創生・規制改革・少子化対策などの担当を経験した職員約20名が集められた。

政府は、今月29日にも関係閣僚と有識者の20名程度で構成する国民会議を近く立ち上げ、初会合を開催する方向で調整している。経済や労働、障害者福祉などの専門家らが国民会議の有識者メンバーとなる見通しで、議論の重複を避けるため、榊原定征・日本経団連会長や三村明夫・日本商工会議所会頭など政府内の有識者会議メンバーも起用する方針だ。

 

今後、国民会議で、安倍総理が掲げた(1)名目GDP(国内総生産)600兆円、(2)希望出生率1.8、(3)介護離職ゼロの「新3本の矢」にもとづいて議論を重ねる。緊急対策(第一弾)を11月中にとりまとめ、今年度補正予算案や来年度予算案に盛り込む。緊急対策では、経済成長や少子化・高齢化対策、高齢者・障害者を含めた雇用対策などが主要課題となる見通しで、実効性のある政策を打ち出すことができるかがポイントとなる。その後、総合的対策と2020年までの具体的工程表からなる政策パッケージ「日本1億総活躍プラン」を来年前半までに策定する方針だ。

こうした政府の国民会議と並行し、自民党も推進本部を月内に設置し、子育て支援策や介護休業制度の充実などの緊急対策をとりまとめて政府に提言する。1億総活躍社会関連施策を来年夏の参議院選挙公約の柱とすることも念頭にあるようだ。推進本部は、縦割りの弊害を減らし、効率的に政策づくりを進めるため、党内の関係部会を束ねる総裁直属の機関となる見通しだ。近く党総務会で正式決定する。

 

加藤大臣らが司令塔となって、具体化に向けた工程表のとりまとめや省庁間の総合調整、他の重要政策を担う担当大臣はじめ関連部署との緊密連携が期待されている。ただ、経済再生や地方創生、雇用・労働、社会保障など1億総活躍社会の実現に係る政策課題が広範囲に渡り、他の所管とも重なる部分も多い。このことから、政府内でどう役割分担していくかも焦点となる。

 加藤大臣は19日、各省庁にまたがる関連施策を集約するため、関係10府省庁の局長級幹部職員が参加する連絡会議初会合を開催した。加藤大臣は縦割りを排して連携・協力を呼びかけたが、各省庁は看板政策に絡めれば予算要求がしやすくなるだけに、施策の売り込みに動きだしている。(1)強い経済関連では、雇用改善と賃金アップ、企業に対する働き方改革<経済産業省>、国土強靱化<国土交通省>、(2)子育て支援関連では、出産・育児休業の取得率向上や、1人親・多子世帯の支援<厚生労働省>、3世代による近居・同居の促進<国土交通省>、フリースクールの公的支援<文部科学省>、(3)社会保障関連では、介護施設の整備と介護人材の育成、介護休業の取得率向上、意欲ある高齢者への就労機会の提供<厚生労働省>などが浮上している。

特に、関連施策を多く抱える厚生労働省や文部科学省は、大臣を本部長とする推進本部を立ち上げた。厚生労働省は、1億総活躍社会実現本部の下に介護離職ゼロ実現チームなど分野別チームを置き、検討作業を加速させる。首都圏で不足する特別養護老人ホームなど介護施設を増やし、介護職員の需要を喚起するため、社会福祉目的で国有地を貸し出す際に賃料が最大で半額になる国有財産特別措置法の規定を一定期間適用、介護施設を運営する社会福祉法人に定期借地権(原則50年)で国や地方の補助金を組み合わせて民間相場の4分の1程度の賃料にて貸し出す案などが浮上しているようだ。

 

このほか、経済の好循環を実現し、新3本の矢の1矢目「強い経済」で掲げた名目GDP(国内総生産)600兆円を達成するため、安倍総理は、16日の経済財政諮問会議で「民需主導の好循環を確立する必要がある。来春の賃上げ、民間投資の拡大に向け議論を深めてほしい」と指示した。

今後、経済財政諮問会議などで議論を深めていく方針だ。また、同日、政府と経済界が協議する「官民対話」の初会合が開催され、安倍総理はじめ関係閣僚、経済3団体や金融業界などのトップが出席した。来春まで月1回程度の会合を開催していくという。安倍総理は、経済界の代表者らに「投資の伸びは十分ではない。いまこそ企業が設備、技術、人材に対し、積極果敢に投資すべき時だ」と呼びかけたうえで、「産業界には投資拡大の具体的な見通しを示していただきたい」と要請した。大企業などが過去最高水準の利益を上げているものの設備投資の伸びが不十分とみて、内需の柱である設備投資・研究開発・人材育成など生産性を高める投資拡大を企業側に促した。

経済界側も「企業が積極果敢にリスクを取って投資するよう呼び掛けを強化する」(日本経団連の榊原定征会長)と応じるなど、前向きな発言が相次いだ。そして、投資拡大に向けた環境整備として、投資の障害となっている規制の改革のほか、法人実効税率の引き下げや投資減税などの税制措置などを求めた。政府側の要請で企業が国内投資をどこまで拡大させるかは不透明だが、政府は、投資拡大が進まない原因を突き詰め、消費・設備投資の喚起策を着実に実行していくことで成果をあげていきたいとしている。

 

 

【政府、TPP説明会開催と対策づくりに着手】

 政府は、1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策具体策や、日米など交渉参加12カ国による環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の大筋合意を受けた国内対策などを柱とする今年度補正予算案を、年内に編成する方針を固めた。景気下支えのための経済対策は、 内閣府が11月16日に発表する7~9月期の国内総生産(GDP)の速報値などを見極めて判断する。補正予算案は数兆円規模となる見通しで、財源は昨年度決算剰余金一部や、今年度予算の税収上振れ分を充てるようだ。

 

 政府は、TPP交渉の大筋合意を受けての国内対策の議論に着手した。全閣僚で構成する「TPP総合対策本部」(本部長:安倍総理)などの初会合が9日に開かれたほか、経済財政諮問会議(議長:安倍総理)でも議論となった。16日の諮問会議では、麻生副総理兼財務大臣や民間議員たちが、関税引き下げに伴って安価な外国産農産物の輸入増加に備えるため、予算のバラマキではなく、農業の構造改革に資する対策を求めた。民間議員たちは、TPPを成長戦略のコアと位置付け、企業の農業経営や農地集約による規模拡大、農業者の加工・販売への進出、輸出促進などを連名で提言するとともに、国内農業の構造・体質強化を図るための改革工程表を示すよう求めた。政府は、具体的な国内対策を盛り込んだ関連対策大綱を11月中にとりまとめ、12月に経済効果の試算も示す。今年度補正予算案や来年度当初予算に盛り込む方向で検討していくという。

農林水産省や経済産業省も、具体策の検討にそれぞれ着手している。農林水産省TPP対策本部(本部長:森山裕農林水産大臣)では、米国やカナダなどで法制化されている、品目ごとに少額の拠出を生産者などに義務づけて国産農産物の販売促進・海外市場の開拓・消費者向けの情報発信などの原資とする「チェックオフ制度」を念頭においた新制度の検討や、農地整備事業の拡充など、農林水産事業への支援策をとりまとめる。また、経済産業省TPP対策推進本部(本部長:林幹雄経済産業大臣)では、中堅・中小企業を中心に海外市場の獲得や技術開発支援、TPPを活用しやすい環境整備と情報提供などについて検討する。また、農林水産省と経済産業省が連携して、農業と商工業の連携による新事業創出や、農産品の加工・輸出などの支援強化も後押ししていくようだ。

 

また、TPP交渉への不安は情報不足も手伝っているとして、農林水産省は、国内対策のとりまとめに先立ち、15日から水田・畑作、園芸、畜産などの分野別説明会を、自治体・関係団体向けに地域ブロック単位で開催している。畑作のほとんど品目で関税の即時撤廃または段階的な撤廃となることや、関税引き下げで安い輸入豚肉の流入が増えるなど、生産者に一定の影響が出る可能性が、農林水産省の説明で明らかとなった。農林水産省は、経営所得安定対策の継続と備蓄米で米価下落の抑制で国産の再生産が可能と説明する。

これに対し、参加者からは、農産物の関税削減・撤廃に対する懸念や、自民党がレッドラインと位置付けた日豪経済連携協定(EPA)の水準を超えた関税引き下げへの反発、場当たり的な対処などの批判が噴出したほか、より詳細な情報開示や影響試算、国会決議との整合性、農業支援対策とその財源確保などで責任ある対応を求める声も相次いだ。

 農林水産省は、引き続き交渉結果や施策に関する説明を丁寧に行うことで、ひろく理解を得ていきたいとしている。経済産業省も、輸出拡大の後押しを図るべく、各都道府県や中小企業、日系企業向けに説明会やセミナーを開催するほか、利活用方法に関する電話相談窓口を設置する。

 

政府は、自治体や関係団体、事業者などの要望なども踏まえ、国内対策を策定していく方針だ。また、国内対策や農業の競争力強化へ向けた課題などについての議論が、自民党でも本格化する。党内の意見集約・調整のほか、農林水産事業の関係団体・事業者を説得するなどの役回りを担う政務調査会農林部会長には、小泉進次郎・前内閣府政務官(復興担当)を起用する予定だ。23日の党総務会で、国会の常任委員長人事などとあわせて決定する。

発信力があり知名度・国民的人気の高い小泉議員を部会長に起用することで、経験を積ませるとともに、来年夏に実施される参議院選挙対策として、事業者のTPPに対する批判を和らげるねらいもあるようだ。国内対策に絡めた歳出圧力が強まるなか、部会長は政府と農林族議員・関係団体との間に立って難しい調整・交渉を担うこととなるだけに、今後、その手腕が問われることとなりそうだ。

 

 

【軽減税率導入を前提に制度設計の議論スタート】

2017年4月に消費税率10%への引き上げに伴って負担緩和策として、飲食料品・生活必需品の消費税率を低く抑える「軽減税率」の導入をめぐっては、安倍総理が14日、自民党税制調査会長に就任した宮沢洋一・前経済産業大臣と会談し、具体的な制度設計は党税調や与党税制協議会での専門的議論に任せるとしつつも、「10%になる時点で、何らかの形の軽減税率を導入する方向で検討してほしい」「公明党とよく話をしてほしい」と指示した。また、軽減税率導入により中小企業の事務負担が増えることへの懸念・不安があることを念頭に、「商工業者などに無用の負担になるようなことは避け、混乱しないような現実的な解決策を考えて欲しい」と要請した。

これを受け、16日、宮沢税制会長は自民党税制調査会の非公式幹部会合を開き、消費税率引き上げと同時に軽減税率を導入することや、消費税率を一律で10%に引き上げたうえで消費者に軽減税率分2%相当を還付する財務省案「日本型軽減税率制度案」を議論の対象から外すことを確認した。

 

自民党と公明党は、安倍総理の意向に沿って具体的な制度設計を行うため、軽減税率に関する与党税制協議会での検討・調整作業を本格化させる。軽減税率の対象品目の線引きや代替財源の確保、中小企業はじめ事業者の事務負担軽減策などについて議論していく見通しだ。

焦点となっている軽減税率の対象品目をめぐっては、税収減規模を1兆円未満におさめるべきだとして絞り込みを図る方針でいる。現在、「酒・外食除く飲食料品全般」(軽減税率8%で年約1兆円減)や、「生鮮食品のみ」(軽減税率8%で年3400億円減)とする案が浮上している。ただ、公明党は「国民の痛税感を和らげ、消費を落とさないことが消費税率10%の引き上げ時に最も必要」「軽減税率は経済対策にもなるとして、景気の下支え策として軽減対象をなるべく幅ひろく確保することが望ましい」(山口代表)として、対象品目を「酒を除く飲食料品(外食含む)」とすべきだと主張している。また、「新聞・書籍は国民に必要な情報を提供するという、民主主義の基礎を支える制度的インフラとして考えるべきだ」と、新聞・書籍も対象品目に含めたほうがよいとの考えも示す。ただ、公明党案では年1.32兆円以上の税収減となるため、今後、対象品目をめぐる綱引きが激しくなっていきそうだ。

事業者の事務負担軽減策をめぐっては、複数税率で事業者が品目ごとに税率・税額を明記するインボイスの義務化は周知徹底と準備に相当程度の時間を要することから間にあわないと判断し、数年程度の猶予期間、公明党が提案している現行の帳簿や請求書に軽減税率の対象品目に印を付ける「簡易な経理方式」でつなぐことも含め検討するようだ。

 

ただ、自民党や財務省では、依然として軽減税率に否定的な声がくすぶっている。自民党は、支持基盤である中小事業者が軽減税率の導入に反発していることもあって、根強い慎重論がある。旧大蔵省出身で財務省案の作成に関与した野田毅前調査会長が事実上の更迭により名誉職的な党税調最高顧問に就任したとはいえ、ナンバー2にあたる額賀福志郎・小委員長が続投するなど、非公式幹部会のメンバー(8人)に、軽減税率導入に慎重だった人たちがほとんど留任する見通しだ。党税調内には、安倍総理の指示により方針転換が余儀なくされているだけに、官邸主導への反発や戸惑いもあるとみられている。

財務省も「財務省は、本当は(軽減税率の導入について)反対だ。面倒くさいとみんないっている。きちんとやるのはすごい手間になる」(麻生大臣)として、税収の減少で社会保障財源が減ることへの懸念、軽減税率の導入にあたっての手続きや準備に必要な時間的余裕がないことも危惧している。軽減税率の導入には消費税法改正が必要で、来年の通常国会に改正案を提出して年度末までに成立させたとしても、実施まで1年程度しか猶予がないからだ。もっとも、消極的な財務省の姿勢には「財務省案の方がよほど面倒くさいというのが国民の反応だ。財務省は大臣をはじめとしてもっと謙虚に受け止めてほしい」(公明党の山口代表)、「財務省も与党に協力するのは当然」(菅官房長官)など、政府・与党内から牽制する声も出ている。

 

軽減税率をはじめとする負担軽減策を今年12月にとりまとめる2016年度与党税制改正大綱に盛り込む方針で、作業時間は限られている。そのうえ、宮沢税制会長は、軽減税率の導入に積極的な公明党と、消極的姿勢をみせる自民党税調や財務省との間に立って、制度設計や政府・与党間の調整を進めていかなければならない。また、円滑な導入・実施には、慎重姿勢の経済界や事業者への説得も不可欠となる。協議難航も予想されるなか、どのように結論を出すのか、宮沢調査会長の力量が問われそうだ。

 

 

【臨時国会、召集見送りへ】

政府・与党は、臨時国会の年内召集を見送る方針を固めた。中央アジア歴訪やソウルで開かれる日中韓首脳会談、トルコで開催される20カ国・地域(G20)首脳会議、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などへの出席と、今月下旬から来月末まで安倍総理の外交日程が立て込んでおり、来年度予算案の編成作業が本格化する12月中旬までの間も十分な審議時間が確保できないことを理由にしている。

労働基準法改正案など通常国会で積み残した法案処理や、12月上旬で任期切れとなる会計検査院検査官と公正取引委員会委員の国会同意人事が存在するものの、目玉案件が乏しく臨時国会を開会するメリットが少ない。また、TPP交渉の妥結が遅れたことにより最終合意・参加各国の協定署名が来年1月となる見通しで、国会承認案や関連法案の国会提出も通常国会以降となる。TPP参加各国の署名が済んでおらず、国内対策とその予算措置も提示できる段階にはないとして、十分に審議できる状況にはないと判断している。このほかにも、参議院選挙への影響を懸念して、新閣僚が国会答弁でつまずいたり、第3次安倍改造内閣発足直後から相次いで発覚した疑惑について追及されたりすることをなるべく回避したいとの思惑があるともみられている。

 

 与党は、臨時国会に代えて、民主党などの要求するTPPなどに関する閉会中審査を11月9~11日の3日間、衆参両院の予算委員会で行う予定だ。これに対し、安倍内閣との対決姿勢を鮮明にしたい野党側は、臨時国会の早期召集を求めている。内閣改造に伴う新閣僚からの所信聴取とそれに対する質疑も見送られることとなる点について、野党各党は「新しい内閣が何をしようとしているのか全く説明がなされていない。常識として国会を開き、国民に説明する責任がある」(民主党の岡田代表)、「これだけ閣僚が代わって所信表明をやらないことはありえない。国会軽視と言わざるをえない」(維新の党の今井幹事長)などと批判した。

また、TPPにより農林水産物の関税が撤廃・引き下げとなることに、生産者などの間で不安が広がっていることを背景に、野党側は、TPP交渉の情勢と大筋合意の内容について早期に質す必要があるとも主張している。政府側は「関税撤廃の例外に加えて、セーフガードの確保、関税削減期間の長期化などの有効な措置を獲得できた」(森山大臣)など関税撤廃による影響が少ないと説明しているが、畑作や園芸、水産品など多くの品目で関税が撤廃されるうえ、農産物の重要5項目(米、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖)も加工品など約3割(174品目)が関税撤廃となる。通常国会では予算審議が優先されるため、TPPをめぐる議論が来年4月以降になることが濃厚となっているが、交渉結果が国益に反していないかや、重要5項目の保護と国民への十分な情報提供などを求めた2013年の国会決議に違反していないかなどを追及していく方針だ。

 

 さらに、1億総活躍社会の実現方法や、マイナンバー制度に絡む厚生労働省の汚職事件の真相解明と再発防止策、通常国会で成立した安全保障関連法、米軍普天間飛行場移設問題、原発再稼働などについても審議を求めたい考えだ。

このほかにも、「追及するに値する問題を抱えている大臣がいれば、追及するのは当然」(民主党の枝野幹事長)と、談合に絡んで鹿児島県から指名停止措置を受けた建設業者10社から献金698万円(2011~13年の合計)を受けていたことが浮上した森山大臣、顔写真と名前入りのカレンダーを支援者に無料配布して公職選挙法違反(寄付行為)にあたる可能性が指摘されている島尻沖縄及び北方担当大臣、過去の不祥事が明るみになった高木復興担当大臣らに照準をあわせ、新閣僚の資質問題を徹底追及する構えもみせている。

 

 臨時国会を召集するか否かをめぐって与野党が対立するなか、19日、民主党・維新の党・共産党・社民党・生活の党の幹事長・書記局長と国対委員長、参院会派・無所属クラブの代表が会談し、新閣僚からの所信聴取とそれに対する質疑やTPPに関する審議を行うため、臨時国会の召集を政府に要求することで一致した。

 20日の与野党幹事長・書記局長会談で、野党は、臨時国会の速やかな召集を申し入れたが、与党は十分な審議時間が確保できないとして慎重姿勢を崩さなかった。野党側は、21日にも「衆議院か参議院のいずれかの4分の1以上の議員が要求した場合、内閣は召集を決定しなければならない」と規定する憲法53条にもとづき、政府へ国会召集を要求する意向を伝えた。

 

 

【臨時国会召集をめぐる攻防の見極めを】

 政府・与党内では、1億総活躍社会の実現に向けた具体策や、TPP大筋合意を受けての国内対策、軽減税率導入に向けた制度設計などの検討作業がスタートしている。一方、臨時国会を召集するか否かをめぐって、早期召集を強く求める野党と、召集を見送りたい政府・与党との心理戦が水面下で繰りひろげている。

野党側は、自民党が国会召集の要求に応じる考えがないとみて、21日にも憲法53条にもとづく召集要求書を議長に提出する方針だ。ただ、召集要求書が提出されたとしても、召集期限が憲法条文に規定されていない。召集するか否かは内閣の最終判断に委ねられている。官邸側は今後の世論の動向などを見極めて判断するとしているが、見送られる可能性が高い。野党側も召集が見送られることを見越しており、引き続き政府・与党の消極的姿勢や憲法軽視を批判して国民にアピールしていきたい考えだ。 

臨時国会の召集をめぐる与野党の攻防が大きなヤマ場を迎えているだけに、ひとまずその動向を見極めることが大切だろう。
 

↑このページのトップヘ