政策工房 Public Policy Review

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

【野党、閉会中審査で高木大臣の疑惑を追及】

先週3日、衆議院では、交渉参加12カ国による環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の大筋合意の内容と国内対策などをテーマに衆議院内閣委員会・農林水産委員会の連合審査会、くい打ち工事の施工データ不正問題などをテーマに衆参両院の国土交通委員会、9月の関東・東北豪雨災害をテーマに衆議院災害対策特別委員会でそれぞれ閉会中審査が行われた。ただ、閉会中審査の質疑時間は短く、野党側の質問が途中で時間切れたり、議論が平行線をたどるなど、政府を追及しきないまま終わっている。

 

TPP交渉をめぐっては、民主党などが、関税削減やコメの輸入枠拡大が盛り込まれたTPP交渉の大筋合意と、農産物の重要5項目(米、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖など甘味資源作物)の保護などを求めた2013年国会決議との整合性や矛盾を追及して、「聖域確保ができない場合、交渉脱退も辞さないとした国会決議と整合していない」などと批判した。これに対し、政府側は「(国会)決議を後ろ盾にして最大限勝ち取った。どう評価するかは国会の判断」(甘利TPP担当大臣)と交渉結果の妥当性などを強調した。

また、野党側の質問者全員が、閉会中審査で「衆議院か参議院のいずれかの4分の1以上の議員が要求した場合、内閣は召集を決定しなければならない」と規定する憲法53条にもとづいた要求であることなどを強調して、臨時国会の召集を求めた。民主党の岡田代表は、参議院の厚生委員会や環境委員会が前委員長の閣僚就任に伴って委員長不在になっていることを問題視して、「委員長がいないから閉会中審査ができない。臨時国会を開かないためにこういうことになっている。緊急事態が生じた場合にどうするのか」(3日の記者会見)などと、臨時国会の召集に応じない政府・与党を批判している。

 

8日には、高木復興担当大臣が出席する衆議院東日本大震災復興特別委員会の閉会中審査が開催された。野党側は、先月の閉会中審査でも取り上げた高木大臣の疑惑を質した。高木大臣には、自身が代表を務める自民党支部と資金管理団体が公職選挙法で禁じている選挙区内の葬儀での香典・枕花代の支出を政治資金収支報告書に記載していた問題や、高木大臣の資金管理団体が2014年に赤飯代約40万円を支出していた問題などの疑惑が次々と発覚している。

高木大臣は、7日の記者会見で、2011~14年に自らの政治団体などから選挙区内で230件・計185万円の香典支出があり、私費で支出していた57件・計45万円分について収支報告書を訂正したことなどを明らかにしたうえで陳謝した。特別委員会の閉会中審査でも、政治資金支出の違法性や窃盗疑惑を事実と繰り返し否定するとともに、「お騒がせして申し訳ない。襟を正して復興担当大臣としての仕事をまっとうしていきたい」と、辞任を否定したうえで復興の加速に取り組む決意を示した。高速増殖原型炉もんじゅを運営する日本原子力研究開発機構の業務を請け負う企業が高木大臣のパーティー券を購入していたことについては、「私の政治姿勢、信条、復興担当大臣の仕事に何ら影響しない」と釈明した。

 

こうした高木大臣の答弁に、野党側はいまだ疑惑が払拭されていないとして、徹底追及する姿勢を崩していない。「復興の加速策は、復興担当大臣がいますぐ辞めることだ」(民主党の柚木衆議院議員)、「ずっと疑念を抱かれているのであれば、1回辞任して、すっきりした方が復興という政策目標のためにはいいのではないか」(維新の党の松野代表)などと大臣辞任を求めるとともに、偽証罪に問うことのできる証人喚問も要求している。

来年1月4日にも召集される予定の通常国会でも野党側が取り上げる方針を固めており、通常国会や夏の参院選にも影響しかねないといった懸念から、政府・与党内では、高木大臣の進退論がくすぶり始めている。参議院東日本大震災復興特別委員会・原子力問題特別委委員会での閉会中審査が11日に予定されており、高木大臣が政治資金問題について十分に説明できなければ、高木大臣の進退論が再浮上する可能性もあるとの見方も出ているようだ。

 

 

【補正予算案、18日にも閣議決定】

 政府・与党は、1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策やTPP対策大綱などを盛り込んだ補正予算案や、来年度予算案の編成作業を本格化している。

政府は、補正予算案を12月18日にも閣議決定のうえ、通常国会冒頭にも提出する方針だ。3.3兆円規模で編成する方針で、財源として昨年度決算剰余金(約2.2兆円)や、法人税・所得税や消費税など今年度予算の税収上振れ分(約1.9兆円)などを充てる。財政再建への懸念が強まることを避けるため、2015年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字を半減する目標を堅持し、国債の追加発行は見送り、国債新規発行額を2015年当初予算編成時より約4500億円分を減額する。

 

1億総活躍社会の実現に向けて緊急性の高い事業約1.2兆円を計上する。具体的には、来年前半の民間消費の下支えや生活支援を目的に低所得の年金受給者約1100万人(65歳以上で住民税の非課税世帯など)に1人あたり約3万円を支給する臨時給付金(約3400億円)のほか、地方創生加速化交付金(約1000億円)、介護施設整備(約900億円)、保育士の確保(約800億円)、保育所などの整備前倒し(約500億円)、介護人材確保(約500億円)などが盛り込まれるようだ。臨時給付金は、来年10月ごろに65歳未満の障害基礎年金・遺族基礎年金受給者(約150万人)へも支給する方針で、来年度予算案に約500億円を計上する。

 TPP対策大綱関連として、農産品の輸出増加のための施策といった国内農家の競争力強化策など(約3000億円)を計上する。また、東日本大震災の復興事業の着実な推進と被災事業者の自立支援などに向けて復興特別会計に約7900億円の繰り入れ、9月の関東・東北水害の復旧や河川整備(約5000億円)、パリ同時多発テロを受けた緊急のテロ対策やテロ対応と2016年5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)開催に向けた対策費(約140億円)なども盛り込む。このほか、2017年4月に消費税率10%への引き上げに伴って負担緩和策として導入する軽減税率に係る中小事業者向け相談窓口の設置など関連対策費(約170億円)、米軍再編にかかる経費(約760億円)、マイナンバーカードの早期交付(約280億円)も追加されるようだ。

 

 一方、来年度予算案の編成をめぐっては、国の一般歳出の多くを占める社会保障関係費の自然増を概算要求額(6700億円)からどこまで抑制できるかが一つの焦点となっている。財務省が約1700億円を削減するよう求めており、厚生労働省はその抑制分を医療サービスなどの公定価格「診療報酬」のマイナス改定でほぼまかなう方向で調整を進めている。

薬の値段などの「薬価」部分は、医療費全体で1.5%弱を引き下げる見通しとなった。厚生労働省は、医療費の抑制・適正化に向け、割安な後発医薬品(ジェネリック)の価格を、来年4月から先発薬の原則6割から5割に引き下げるほか、後発薬が10品目以上あって市場規模が大きいものは現行の5割を4割へ引き下げる。研究開発費がかかるバイオ医薬品は、現行の7割を維持される。患者の服薬情報の一元管理や服薬指導を手掛ける「かかりつけ薬局」の調剤報酬を手厚くする一方、特定病院の処方箋のみを集中的に受け付けている「門前薬局」の調剤報酬を引き下げるなどの見直しを行っているものの、医師や薬剤師の技術料など「本体」部分への切り込みは見送られるようだ。

 

 

【与党協議、軽減税率の品目などで平行線】

 12月10日をメドに2016年度与党税制改正大綱とりまとめるべく、与党の検討作業が大詰めを迎えている。安倍総理は、7日に開かれた政府・与党連絡会議で「法人税改革や軽減税率をはじめ、税制改革は大詰めを迎えている。取りまとめに向けて党の協力をお願いする」と、与党内の調整を急ぐよう指示した。

 

焦点となっている法人実効税率(国・地方)の引き下げ幅のさらなる上乗せをめぐっては、経済再生や企業の国際競争力向上、景気の底上げにつながる企業の投資拡大と賃上げを後押しするため、1年前倒しして2016年度に29.97%まで引き下げる。給与総額など企業規模に応じて課税する「外形標準課税」(地方税)の拡大と欠損金繰り越し控除の縮小を一部前倒しすることなどで税率引き下げの穴埋め財源を捻出する。外形標準課税の拡大に伴い、資本金が数億円レベルの中堅企業に対しては2016年度3年間、法人事業税の負担額が増えた分から25~75%を軽減する措置を設ける。

また、早期に20%台に引き下げる道筋を付けるため、政府・与党は、2018年度に29.74%まで引き下げる方針も固めた。設備投資減税の時限措置期限2016年度末で打ち切るほか、欠損金繰越控除の上限を2016年度から3年間で毎年5%ずつ縮小、購入した生産設備などを耐用年数に応じて費用に分割計上する減価償却制度の見直しなどで、恒久的な財源を確保するとしている。

 

このほか、医療費削減につなげるため、年間計1.2万円超の医療用医薬品から市販薬に転用した「スイッチOTC医薬品」を購入した額の一部を所得額から差し引く所得控除(控除限度額10万円)や、地方創生や中小企業支援につなげるねらいから、機械や装置など中小企業の新規設備投資を対象に、生産性向上の効果が見込めることなどの条件を満たせば償却資産にかかる固定資産税(市町村税)を3年間軽減する措置などが盛り込まれる。また、消費税率引き上げに伴う消費低迷を引き続き防止するとともに消費を喚起するため、大企業が接待・交際費のうち飲食費50%までを費用として認めて課税対象外の損金に算入できる特例措置や資本金1億円以下の中小企業が交際費800万円まで損金に算入できる特例措置を2018年3月末まで延長するようだ。

また、消費税率引き上げに伴って地方税の自動車取得税が廃止されることが決まっているため、それに代わる新たな自動車税制として購入時の自動車税と軽自動車税を拡充し、上乗せ分を低燃費車ほど段階的に税率が低くなる「環境性能割」を導入する方針だ。景気減速を回避する観点や国内販売落ち込みを懸念する自動車業界の懸念を払拭する観点から、全体として実質的に減税となるようなしくみとする方向で調整している。さらに、温暖化対策として森林整備を進めるため、国税に「森林環境税」(仮称)を創設する。個人住民税に上乗せするかたちでひろく薄く徴収するしくみにする方向で検討されており、導入時期などについて調整が続けられている。

 

軽減税率の制度設計をめぐっては、自民党と公明党が軽減税率の経理方式として、現行制度を一部変更して軽減税率導入時に請求書で軽減税率適用商品に印を付けて合計額の税率・税額を記す「簡易な経理方式」を採用し、一定期間を経過した後に納税額を正確に把握できる「インボイス(適格請求書等保存方式)」に移行することなどで大筋合意したことを受け、軽減税率の対象品目と財源の調整を急いでいる。

軽減税率の対象に加工食品を含めることを前提に幹事長レベルで断続的に協議しているが、いまだ与党間の膠着状況が続いている。事業者の準備が間にあわないことや財源確保の見通しが立っていないことなどを理由に、まず導入時の対象品目を生鮮食品に絞り将来的に加工食品にも広げる「2段階拡大案」を主張する自民党に対し、国民の痛税感の緩和や分かりやすさ、景気対策になることなどを重視する公明党は軽減税率の導入時に加工食品も含めるよう求めている。麻生副総理兼財務大臣は、店舗のレジなどのシステム対応に準備期間が必要なことを挙げて「加工食品を入れるなら、2017年4月に間にあわない」(8日の閣議後記者会見)と強調したうえで、食品表示法上の線引きから「生鮮食品だけというなら整理がついている」と軽減税率の対象品目を絞るよう強調している。

 

 

【税制改正大綱のとりまとめに注目を】

 8日、安倍総理・自民党総裁と公明党の山口代表が会談し、幹事長レベルで軽減税率の制度設計の協議を継続するについて確認した。与党税制改正大綱のとりまとめ期限が迫るなか、幹事長レベルでの協議・調整が引き続き行われることとなった。ただ、自民党と公明党が互いの主張を譲らず、軽減税率の対象品目と穴埋め財源をめぐる激しい攻防が続けている。解決の糸口がつかめず調整難航も予想されており、与党内からは与党税制改正大綱のずれ込みもやむをえないとの見通しや、党首会談での最終的な政治決着を期待する声も出ているようだ。

 与党税制改正大綱のとりまとめがヤマ場となっており、軽減税率の制度設計をどのように決着するのかが最大の焦点となっている。また、来週末には、政府が補正予算案を閣議決定する予定で、編成作業は大詰めを迎えている。政府・与党内での検討動向も踏まえつつ、最終的にどのような内容が盛り込まれることとなるのか、引き続き見極めることが重要だ。
 

【TPP対策大綱と1億総活躍社会の緊急対策を決定】

先週11月25日、政府は、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)総合対策本部を開き、農林水産業の成長産業化や中堅・中小企業の海外展開支援などを柱に据えたTPP対策大綱を決定した。対策大綱では、攻めの農林水産業への転換施策として、生産者の体質強化を推進していくほか、中小企業の6割以上が海外で新規取引先の獲得や事業拡大を実現するとの目標を明記して、対象企業の海外展開などを支援する。また、農林水産物・食品の輸出額を6000億円超(2014年)から1兆円にする目標の達成時期は前倒しにした。

安倍総理は「(TPPは)日本の経済再生、地方創生に直結させるために必要な政策」と強調したうえで、TPP対策大綱の着実な執行と施策の具体化により「攻めの農林水産業に転換する」などと決意を示した。今後、政府は、対策大綱にもとづき、農業者などの意見も聴取しながら政策・施策を継続的に検討し、来年秋をメドにとりまとめる方針だ。また、牛・豚肉の経営安定対策事業の法制化などは、来年1月4日にも召集される予定の通常国会に関連法案を提出する方向で進めていくという。 

 

 26日には、新たな看板政策として打ち出している1億総活躍社会を実現するための具体策を関係閣僚・民間議員らで検討する「1億総活躍国民会議」を開催し、緊急対策(第一弾)を決定した。緊急対策では、(1)「名目GDP(国内総生産)600兆円」を達成するための強い経済、(2)2020年代半ばまでに「希望出生率1.8」を実現するための子育て支援の充実、(3)介護を理由に仕事をやめる介護離職者(年間約10万人)を減らす「介護離職ゼロ」など社会保障制度改革・充実、の「新3本の矢」それぞれの施策を列記した。

議長の安倍総理は、「1億総活躍社会とは、成長と分配の好循環を生み出していく新たな経済社会システムの提案」「子育てや社会保障の基盤を強くし、それがさらに経済を強くするという成長と分配の好循環を構築していきたい」と対策の意義を強調したうえで、「緊急対策を内閣の総力を挙げて直ちに実行に移していく」と述べた。

 

強い経済関連では、法人実効税率(国・地方)を早期に20%台まで引き下げる道筋をつけるとしたほか、最低賃金を年率3%程度引き上げて2020年代前半に全国加重平均で時給1000円をめざすことを打ち出した。また、賃上げの恩恵が及びにくい低所得の年金受給者への支援も盛り込み、給付金1人3万円程度を支給する方向で検討している。26日に開かれた政府と経済界が協議する「官民対話」では、日本経団連の榊原会長が、法人実効税率の引き下げや新技術開発に向けた積極的支援、労働規制のさらなる緩和などにより2018年度までの3年間で設備投資が10兆円程度増加する見通しや、収益が好調な加盟企業に自社の実情にかなったかたちで前年を上回る賃上げを行うよう呼びかける方針を表明した。

 

子育て支援関連では、待機児童の解消に向けて認可保育所・小規模保育・事業所内保育所といった施設整備・補助拡充などを進めることで2017年度末までに保育受け入れ枠50万人分を新たに確保するとした。保育所増設は、既存の子育て支援関連基金を活用する方針だ。認可外の事業所内保育所にも子どもを預けやすくするため、保育士数などを条件に運営費の補助するほか、複数企業による共同保育所運営を容認するなど施設整備を後押しするしくみも検討する。また、保育士の人材確保を図るため、修学資金の貸し付けと卒業後の所得に連動させて無理なく返済ができる制度導入、保育士の待遇改善や離職した保育士の再就業支援なども行う。

さらに、25~44歳の女性就業率を将来的に80%まで拡大していくことを目標に、雇用契約満了までに子どもが2歳にならなければ取得できない非正規雇用女性の育児休業を子ども1歳半であれば取得できるようにするなど育児休業を取得しやすい制度なども見直す。このほか、幼児教育の無償化や児童扶養手当の拡充、3世代同居向け住宅の建設に補助拡充などの育児負担の軽減、不妊治療への助成拡充なども盛り込まれた。

 

介護離職ゼロ関連では、特別養護老人ホームや宿泊を組み合わせた在宅サービス、サービス付き高齢者向け住宅といった介護施設などを、2020年代初頭までに50万人以上分を新たに整備することが明記された。また、介護人材確保策として介護福祉士をめざす学生に対する学費貸付制度の対象を拡大する。介護職員の給与が低く慢性的な人手不足が指摘されるなか、政府は、介護人材の処遇改善が喫緊の課題と位置付けているが、具体的な処遇改善策への言及について見送った。いまのところ、2018年度の介護報酬改定まで介護職員の基本給引き上げも行われないようだ。このほか、介護休業給付を休業前の給与水準の40%から育休給付と同じ67%に引き上げる。

 

政府は、補正予算案や来年度予算案に反映するとともに、制度の見直しなどが必要なものは通常国会で法改正をめざす。また、国民会議では、2020年以降を見据えた中長期の総合的対策と具体的工程表からなる政策パッケージ「日本1億総活躍プラン」のとりまとめ作業に着手し、来年5月にも策定する方針だ。

 こうした緊急対策に、与党内から「全体のつながりがみえない」「総花的で何をしたいのかがわかりにくい」といった批判や、具体的な財源が曖昧で関係府省の連携も不足しているなどと懸念する声が続出している。また、国民会議の民間議員らから、低年金者への給付金など一過性の対策も含まれているため、参議院選挙を意識したバラマキ施策にならないようにすべきとの意見もある。

 

 

【安倍総理、補正予算案と来年度予算案の編成を指示】

政府は27日、補正予算案と来年度当初予算案の編成の基本方針を閣議決定し、全閣僚に編成を指示した。政府・与党は、政府の基本方針を踏まえて編成作業を本格化している。

補正予算案は、3.5兆円規模となる見通しで、昨年度決算剰余金(約1.58兆円)や、法人税・所得税や消費税など今年度予算の税収上振れ分(約1.3兆円)などを財源に充てる。財政再建への懸念が強まることを避けるため、2015年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字を半減する目標を堅持し、国債の追加発行は見送る。TPP大筋合意を受けての国内対策や1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策のうち緊急性の高い事業を計上するほか、9月の関東・東北水害の復旧や河川整備関連(約2000億円)に重点的に置いた災害対策や、パリ同時多発テロを受けた緊急のテロ対策費用なども、補正予算案に盛り込むようだ。

 

 TPPの国内対策では、「攻めの農林水産業への転換」に必要な経費を中心に計上するとしており、農林水産関連の対策費を総額3000億円程度とする方向で調整している。

農林水産業の体質強化・収益力向上策は、複数年度にわたって機動的・弾力的に予算配分を行う必要があるとして、関税の引き下げの影響を受ける牛肉・豚肉などの畜産業と、それ以外の野菜・果実などに分けて二つの基金をつくり、農地の大規模化に必要な機械・施設への設備投資、畜産の繁殖技術の改良、畜産クラスター事業、産地パワーアップ事業などを支援する方向だ。また、農産物の輸出促進・拡大に向けた販路支援・環境整備、自民党が強く求める農地の大区画化・汎用化など農業農村整備事業(約1000億円)のほか、財源不足が見込まれる水田活用の直接支払交付金の積み増し、台風で被災した農家への支援策、強い農業づくり交付金なども盛り込む方向で調整している。

財務省は、TPP対策が旧来型のバラマキにしないよう、予算額を極力絞り込む方針だが、自民党内では、対策大綱に明記された「既存の農林水産予算に支障を来さないよう政府全体で責任を持って毎年の予算編成過程で確保する」点を根拠に、TPPに対する不安が大きい農家への保護対策の拡充と予算増額を求める声が強まっており、財務省と自民党・農林水産省とが水面下で攻防を繰りひろげている。

 

 1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策関連については、安倍総理が「我が国の経済は穏やかな回復基調が続いており、引き続き機動的な対応を行いつつ、GDP600兆円に向けた歩みをより確固としたものにしていく必要がある」と、子育て支援や介護離職ゼロに直結する施策に必要な経費を計上する意向を示している。具体的には、個人消費の活性化を図るべく、賃上げの恩恵を得られていない低所得の年金受給者に絞って支給する臨時給付金を計上するほか、保育や介護の関連施設・サービスの整備、介護人材の育成強化、介護者の負担軽減を図る介護ロボットやICT(情報通信技術)の活用、3世代同居を促す住宅補助、近居世帯に対する家賃軽減の拡充なども補正予算案を盛り込まれる見通しだ。

 このほか、「地方創生なくして1億人を維持することはできない」(安倍総理)として、地方創生や地域経済の活性化に取り組む地方自治体の先駆的事業を積極的に支援するため、「地方創生加速化交付金」(仮称)を最大で1000億円規模で計上する方針だ。政府は、新型交付金を2016年度から導入することになっているが、地方自治体の先駆的事業が本格始動することを踏まえ、前倒しで補正予算案に盛り込むこととなった。

 

 一方、来年度予算案の編成をめぐっては、編成の基本方針で「経済再生なくして財政健全化なし」と、経済再生と財政健全化をともに前進させる方針を改めて打ち出した。TPPや1億総活躍社会の実現に係る対策に重点を置きつつ、財政健全化計画に盛り込まれた2020年度にプライマリー・バランスの赤字脱却をめざして国の政策遂行に必要な経費を計上する一般歳出を年平均5000億円強の増加に抑える目安を十分踏まえたうえで予算案を編成していくため、「歳出全般にわたり聖域なき徹底した見直しを、手を緩めることなく推進する」と歳出改革にも取り組むとしている。

 基本方針の閣議決定に先立って開催された行政改革推進会議(議長:安倍総理)では、8府省55事業<来年度予算案での概算要求総額13.6兆円>の政策効果を点検・検証する「行政事業レビュー」の検証結果がとりまとめられた。検証結果では、原子力関連事業や2020年東京オリンピック・パラリンピック関連事業などを中心に、抜本的見直しや予算計上の見送りなどを求めている。安倍総理は「税金が優先順位の低い施策に使われるとの批判を招いてはならない。予算編成に的確に反映し、さらに事業の改善に努力したい」と、引き続きムダ撲滅に取り組む方針を強調したうえで、検証結果を来年度予算編成に反映させるよう各府省に指示した。

 

国の一般歳出の多くを占める社会保障関係費を抑制するため、財務省は財政健全化計画にもとづいて概算要求から約1700億円を削減する方向で調整している。抑制分は、医療サービスなどの公定価格「診療報酬」のマイナス改定でほぼまかなう方向だ。

薬の値段などの「薬価」部分は、今年も1%超を引き下げる。厚生労働省は、医療費の抑制・適正化に向け、割安な後発医薬品(ジェネリック)の価格を、先発薬の原則6割から5割に引き下げるほか、後発薬への切り替えが進まない先発薬の価格を通常の薬価改定とは別に1.5~2%引き下げる制度の要件も見直す方針だ。医師や薬剤師の技術料など「本体」部分では、患者の服薬情報の一元管理や服薬指導を手掛ける「かかりつけ薬局」の調剤報酬を手厚くする一方、特定病院の処方箋のみを集中的に受け付けている「門前薬局」の調剤報酬を引き下げるなどの見直しを行う。

削減を徹底して求める財務省と、削減幅を極力抑えたい厚生労働省・自民党などが、予算編成での改定率決定を前に水面下での攻防を繰りひろげられている。

 

 

【与党協議、軽減税率の品目などで平行線】

12月10日ごろの2016年度与党税制改正大綱とりまとめに向け、与党は要望項目の取り扱いを決める振り分けなど行って検討作業を加速させている。

今回の税制改正大綱では、市販薬を購入した額の一部を所得額から差し引く所得控除(所得税・個人住民税)、不正行為を意図的に繰り返す悪質な納税者に対し通常の所得税や法人税などの税額に上乗せする「加算税」の10%引き上げ(最高50%)、新幹線通勤者などが増えていることに配慮して公共交通機関の定期券代や有料道路の料金に応じた通勤手当の所得税非課税限度額を月10万円から月15万円に引き上げ、クレジットカードで国税納付ができるしくみの創設などが固まっている。また、TPPの農業対策の一環として農地集約を促進するため、農地中間管理機構を通じて農地を長期間貸し出す農家に対し、固定資産税を最大5年間半減する優遇措置を導入するほか、再生可能な耕作放棄地に対する固定資産税を1.8倍に増やすようだ。

 

 一方、関係団体などとの調整ができていないビール系飲料の税額見直しや、ゴルフ場利用税の廃止を先送りし、来年末の2017年度改正作業で議論することとしている。また、金融庁や証券業界などが強く要望していた、株式と株式投資信託などで得た利益と損失を合算して課税額を決める「損益通算制度」にデリバティブ取引を加える案も見送る方向で調整に入っている。

焦点となっている法人実効税率の引き下げ幅のさらなる上乗せをめぐっては、経済再生や企業の国際競争力向上、景気の底上げにつながる企業の投資拡大と賃上げを後押しして、早期に20%台に引き下げる道筋を付けるため、政府は、1年前倒しして2016年度に29.97%まで引き下げる方針を固めた。給与総額など企業規模に応じて課税する「外形標準課税」(地方税)の拡大や設備投資減税の一部縮小、購入した生産設備などを耐用年数に応じて費用に分割計上する減価償却制度の見直しなどにより税率引き下げの穴埋め財源を捻出する方向で、政府・与党が調整している。経済産業省は、赤字企業への課税拡大につながるとして外形標準課税の拡大に慎重姿勢を示していたが、打撃を受ける中堅企業への配慮を条件に容認した。与党協議を経て与党税制改正大綱に盛り込まれる見通しだ。

 

2017年4月に消費税率10%への引き上げに伴って負担緩和策として導入する軽減税率の制度設計をめぐって、自民党と公明党が幹事長レベルによる協議を行っているが、互いに主張を譲らず、協議が平行線を辿っている。

事務負担が増える事業者への配慮や財源確保の観点から対象品目を絞りたい自民党は、2017年4月の軽減税率スタート時には対象品目を生鮮食品(年間軽減額3400億円)とし、税額票(インボイス)が義務化される3年後をメドに加工食品を含めた飲食料品へと拡大する段階的に拡大する案を改めて主張している。また、公明党に配慮して、対象品目の拡大までの期間、社会保障と税の一体改革の枠外の一般財源を使って低所得者に給付金を支給する方向で調整を進めている。これに対し、国民の痛税感の緩和や分かりやすさ、景気対策になることなどを重視する公明党は、軽減税率の導入当初から対象品目を「酒類を除く飲食料品(外食を含む、年間軽減額約1.3兆円)」か「酒類・外食を除く飲食料品(年間軽減額約1兆円)」と、可能な限り幅ひろい品目にするよう求めている。

 

 官邸側は、自民党と公明党の幹事長レベルでの協議で決着をつけることを前提としつつも、このまま期限が迫っても決着の糸口をつかむことができなければ、水面下での調整に乗り出す構えもみせた。軽減税率の対象品目を生鮮食品と加工食品(酒・外食・菓子・飲料を除く、年間軽減額約8000億円)とする案なども検討している。医療・介護や保育などの自己負担の合算額に上限を設定し上限を超えた分を国が給付する「総合合算制度」の実施見送りで捻出できる年4000億円のほか、景気回復による税収の上ぶれ分や、たばこ増税、診療報酬改定の厳格化などで穴埋め財源を捻出する案も挙がっているという。

こうした官邸側の動きに、自民党執行部や税調内では、税収の上ぶれ分を活用する案などが安定財源としてみなすことができないと反発を強めるほか、官邸側が調整に乗り出すことへの警戒感もひろがった。谷垣幹事長は、安定財源の確保を前提としつつも、「まとめるには視野を広げた議論が必要」と、加工食品の一部も対象品目に追加することや、軽減税率に充てる財源を上積みして4000億円超とすることも含め、公明党と一致点を探っていく可能性を示唆した。当面、軽減税率の対象品目と穴埋め財源をめぐる政府・与党間の激しい攻防が12月10日まで続きそうだ。

 

 

【軽減税率などをめぐる攻防に注目を】

12月1日の衆議院文部科学委員会で、馳文部科学大臣や遠藤オリンピック担当大臣らの出席のもと閉会中審査が行われ、高速増殖炉もんじゅの管理不備問題や、教職員定数、奨学金拡充、学校の耐震化、五輪選手への報奨金といった問題についての議論が行われた。3日にはTPPの合意内容と国内対策などをテーマに衆議院内閣委員会・農林水産委員会の連合審査会、くい打ち工事の施工データ不正問題などをテーマに衆参両院の国土交通委員会、9月の関東・東北豪雨災害をテーマに衆議院災害対策特別委員会などでそれぞれ閉会中審査が開催される。

このほかにも、高木復興担当大臣が出席する衆議院東日本大震災復興特別委員会の閉会中審査を8日に開催する方向で調整している。野党側は、高木大臣の疑惑を追及する構えだ。参議院側では、11日までの間に各委員会での閉会中審査を開催する方向で与野党が調整を進めている。

 

ただ、閉会中審査の質疑総時間が限られていることもあり、議論の深まり欠ける。「衆議院か参議院のいずれかの4分の1以上の議員が要求した場合、内閣は召集を決定しなければならない」と規定する憲法53条にもとづいて臨時国会の召集を強く求めてきた野党5党(民主党・維新の党・共産党・生活の党・社民党)は11月30日、大島衆議院議長に政府に臨時国会の召集を要求するよう文書で重ねて申し入れた。12月2日には、民主党・共産党・維新の党・社民党と参議院会派無所属クラブが、山崎参議院議長に政府に臨時国会を早期に召集するよう働き掛けを求めた。衆参両院の議長は「憲法を守るべきだという求めは当然。議長として改めて開くよう要求したい」(大島議長)、「個人的には同感だ。重く受け止め、内閣に強く申し伝える」(山崎議長)と、野党側の申し入れを政府に伝えると応じた。ただ、与党は野党側が求める臨時国会の召集に応じない方針で、本格的な与野党論戦は事実上、通常国会に持ち越しとなっている。

 

 与党税制改正大綱のとりまとめが大詰めを迎えており、最大焦点となっている軽減税率の制度設計についてどのように決着するのかがポイントとなる。また、補正予算案や来年度予算案の編成作業などが本格化しており、政府・与党の水面下での駆け引きも激化している。軽減税率はじめ税制改正大綱のとりまとめや、予算編成などをめぐる政府・与党内の攻防に引き続き注視しながら、最終的にどのような内容になるのかを見極めていくことが大切だ。
 

【TPP対策大綱、25日に決定】

 先週20日、自民党と公明党は、交渉参加12カ国による環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の大筋合意を受けての国内対策に関する提言をそれぞれとりまとめ、政府に提出した。与党の提言を踏まえ、政府は25日にも対策大綱を決定する。

自民党は、農林部会・水産部会・経済産業部会・財務金融部会など13部会での検討結果を踏まえ、国内対策に関する提言をとりまとめた。TPPを契機に国産の農林水産品・工業製品・放送コンテンツ・サービスなどの輸出を拡大して新輸出大国をめざす「攻め」の施策と、安価な農産物の輸入で打撃が見込まれる生産農家の経営安定化などを重視した「守り」の対策の2本柱で提言している。公明党は、農業生産者の不安解消を図るための経営安定化対策、TPP活用策に関する相談窓口の整備など競争力強化策、消費者の視点を重視した原料原産地表示を義務付ける加工食品の対象拡大などを求めた。

 

自民党提言では、攻めの施策として、農商工連携や官民連携組で中小企業の海外展開の後押しや、円借款手続きの迅速化やトップセールスでのインフラ輸出促進、農業の6次産業化などによる地域資源のブランド化、TPP活用窓口の設置など情報発信の強化などを積極的に進める。また、貿易・投資が活発に行われる「グローバル・ハブ」をめざして、国内企業のイノベーションを進めるなど国際競争力の強化も図る。農林水産業では、生産者が力を発揮できる「農政新時代」をめざすため、経営感覚に優れた次世代の担い手育成と金融支援措置などの充実、農地中間管理機構の活用・拡大による農地集約・大規模化、リース方式による漁船導入支援、林業の間伐推進などを盛り込まれた。

 関税引き下げに対する生産者の不安払拭や影響緩和の守りの対策では、政府備蓄米の保管期間を原則5年から3年に短縮することにより単年度の購入量を増やし流通量を調整することで国内米価の下落を防止するほか、牛肉・豚肉の所得補填事業を法制化して補填率を赤字分の8割から9割に拡大といった具体的な経営安定対策などが並んだ。自民党提言では対策の予算規模や必要な期間の明記が見送られたが、農林水産対策については「既存の予算が削減・抑制されることなく安定財源を確保」するよう求めた。


政府は、対策大綱をとりまとめ、その一部を補正予算案や来年度予算案に計上する。財政制度等審議会(財務大臣の諮問機関)が24日にまとめた2016年度予算編成に関する建議(意見書)では、1993年の関税・貿易一般協定のウルグアイ・ラウンド合意を受けての農業対策(約6兆円)で農業の体質強化につながらない施策が含まれていたことを指摘したうえで、TPPの国内対策では、構造改革の進捗を客観的に測定できる成果目標を設けるなど、「真に競争力の強化に資する内容」にするよう求めている。自民党は「バラマキはしない」(小泉進次郎・農林部会長)と強調しているが、来年夏の参議院選挙を意識して、農業の土地改良事業費など手厚い予算配分を求める声も出ている。補正予算案や来年度予算案の編成作業が本格化しており、政府・与党内での熾烈な駆け引きが活発となりつつあるようだ。

 

 

【一億総活躍社会の緊急対策、26日にとりまとめ】

 新たな看板政策として打ち出している1億総活躍社会の実現に向け、自民党と公明党は24日、政府の緊急対策(第一弾)に反映するべく、それぞれの提言を政府に提出した。

自民党がとりまとめた提言では、子育て支援策として、保育士不足の解消をめざして原則年1回実施している保育士試験を2回にする都道府県を増やすことや、介護福祉士をめざす学生への修学資金拡充、介護職員の待遇改善、企業内保育所を新たに設置した場合に助成される補助金の支給期間(運営開始から5年間)の延長、第2子以降の児童扶養手当増額などひとり親世帯への支援強化、病児・病後児保育の充実、住宅建設の補助を拡充するなど3世代同居・近居の支援などを挙げた。介護支援策としては、介護休業・休暇の分割取得が可能な制度見直し・職場環境の整備や、用地確保の困難な都市部で国有地を安価で貸し出すなど介護施設・サービスの整備推進などが明記された。

公明党がとりまとめた提言では、妊娠や出産を理由に退職などを迫るマタニティーハラスメント防止のための法整備や、ひとり親家庭の親の就労・子どもの学習への支援拡充、介護従事者の一層の待遇改善などを求めている。

 

 政府は、安倍総理が掲げる新3本の矢(強い経済、子育て支援の充実、社会保障制度改革)を前提に、「経済の好循環を通じて、夢を紡ぐ子育て支援や、安心につながる社会保障を実現する」との基本的考え方を緊急対策で打ち出す。

2020年代半ばまでに「希望出生率1.8」を実現する子育て支援関連では、待機児童の解消に向けて2017年度末までの保育受け入れ枠を40万人から50万人に拡大することや、雇用契約満了までに子どもが2歳にならなければ取得できない非正規雇用女性の育児休業を子ども1歳半であれば取得できるようにするなど取得しやすい制度への見直しなどが盛り込まれる見通しだ。

介護を理由に仕事をやめる介護離職者(年間約10万人)を減らす「介護離職ゼロ」関連では、国有地を社会福祉法人に民間相場の最大半額で貸し出し、介護休業の分割取得も可能とする制度見直し・介護休業給付金の引き上げなどを打ち出すという。慢性的に介護人材が不足するなか、介護施設などの整備目標を2020年代初頭までに約40万人増へと拡充するため、厚生労働省は、介護職員らの事務作業負担の軽減や、離職した介護職員に再就職支援として数十万円を貸付ける制度新設など介護分野の人材確保にも取り組む。

 

24日に開催された経済財政諮問会議では、国内総生産(GDP)600兆円の達成で希望を生み出す「強い経済」を実現するため、消費喚起策や投資促進などを柱とする緊急対応策のとりまとめに着手している。2015年7~9月期実質GDPが2四半期連続のマイナス成長となったが、緩やかな景気回復が続いているとの認識のもと、短期的な景気刺激策という位置づけにはしない方針だ。

議長の安倍総理は、経済界に賃金引き上げを要請するとともに、「年率3%程度をメドに、GDPの成長率にも配慮しつつ引き上げていくことが必要」「(2020年代前半に最低賃金の全国加重平均が)1000円になることをめざす」と、経済の好循環には最低賃金の引き上げが不可欠との認識を示し、企業が賃上げできる環境整備を進めるよう関係省庁に指示した。人件費負担が増える中小・零細事業者などの反発も予想されるため、業績改善を通じて賃金上昇の原資を確保できるよう、中小・零細事業者を対象とした生産性向上や取引条件の改善などの支援策も講じていく考えだ。

また、経済財政諮問会議の民間議員から「賃金引き上げの恩恵が及びにくい低年金受給者にアベノミクスの成果が波及するよう対応すべき」との提言があったことから、別途、賃上げの恩恵を受けられない低所得の年金受給者への給付が必要と判断した。1人3万円の給付金となる方針で、低所得の年金受給者の家計を支援することにより、個人消費の底上げをならっている。このほか、女性や高齢者の働く意欲を抑えているとされる税・社会保険料負担の「103万円の壁」への対策検討や、省エネ住宅や燃料電池車の購入費負担軽減なども盛り込むようだ。

 

政府は、11月26日に開催予定の「1億総活躍国民会議」(議長:安倍総理)で、新3本の矢からなる緊急対策をとりまとめる。これを受け、TPP大筋合意を受けての国内対策や、1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策などを柱に補正予算案を編成する方針だ。このほか、9月の関東・東北水害の復旧や河川整備に重点的に置いた災害対策や、パリ同時多発テロを受けた緊急のテロ対策費用などが補正予算案に盛り込まれるようだ。

補正予算案は3.5兆円規模となる見通しで、昨年度決算剰余金(約1.58兆円)や、消費税や所得税など今年度予算の税収上振れ分などを財源に充てる。財政再建への懸念が強まることを避けるため、国債の追加発行は見送るという。政府は、補正予算案を12月中旬に閣議決定し、来年1月4日に召集する通常国会に提出する。

 

 

【与党、税制改正大綱のとりまとめ作業に着手】

与党は、今年12月までに2016年度与党税制改正大綱をとりまとめに向けた作業に着手した。2017年4月に消費税率10%への引き上げに伴って負担緩和策として導入する軽減税率の制度設計や、法人実効税率(国・地方)のさらなる引き下げなどが税制改正の主要焦点になるとみられている。

法人実効税率の引き下げをめぐっては、2016年度に32.11%から31.33%に下がることが決まっているが、経済再生や企業の国際競争力向上の観点から、税率引き下げ幅のさらなる上乗せをめざしている。2016年度に30.88~30.99%に、2017年度に20%台をめざす案が有力だ。ただ、税率引き下げの前提としている財源確保について、給与総額など企業規模に応じて課税する「外形標準課税」(地方税)の拡大や、租税特別措置の廃止などによって捻出する方針としているものの、いまのところ具体策は決まっていない。どのように財源を確保し、「数年で20%台」(2015年度税制改正)を実現する具体的道筋をどう示すのかが主なポイントとなる見通しだ。

 

地方創生の一環として2016年度からの導入をめざしている、地方自治体への寄付を企業が全額損金算入できる現行制度に加え、本来支払うべき税額から3割を差し引く税額控除を新たに設ける「企業版ふるさと納税」について、自民党は、与党税制改正大綱に盛り込む方向で調整を進める。また、震災復興の支援税制として、2016年3月末に期限を迎える被災者を雇用した企業に認めている法人税軽減の時限措置などは延長の是非を検討するようだ。

 経済の好循環の実現に向けて、企業が投資拡大や賃上げに積極的に取り組むよう、約354兆円と過去最高を更新した内部留保への課税を検討すべきだとして、自民党次世代の税制を考える会の中堅・若手議員らが政府や党税制調査会などに働きかけている。賃上げや設備投資・研究開発・人材育成を経済界に要請している安倍総理を後押ししたい思惑がある。ただ、内部留保への課税は、法人税納入後に残る利益剰余金に再び課税(二重課税)することになるため、政府は「政策的な議論を深めることが先決」(菅官房長官)と否定的な見解を示している。官民対話などを通じて経済界に働き掛けていく方針で、「法人税を下げて、下げた分だけ内部留保がたまるのでは意味がない」「企業は給料を増やす、株主に配当を増やす、設備投資を増やす。この3つに利益は使われてしかるべき」(麻生副総理兼財務大臣)などと強調している。

 

飲食料品・生活必需品の消費税率を低く抑える軽減税率の制度設計をめぐっては、自民党と公明党が協議を重ねているが、対象品目や税収減を補う財源などで隔たりが大きく、平行線をたどっている。

18日の与党税制協議会・軽減税率制度検討委員会(座長:宮沢洋一・自民党税制調査会長)で、自民党は、事務負担が増える事業者への配慮や財源確保の観点から、2017年4月の軽減税率スタート時は飲食料品の対象品目を絞り、事業者の準備が整う3年後をメドに対象品目を拡大する「2段階案」を主張した。自民党は、加工食品の線引きが難しいとして「生鮮食品を基本」(年間軽減額3400億円)とすべきであり、穴埋め財源も医療・介護や保育などの自己負担の合算額に上限を設定し上限を超えた分を国が給付する「総合合算制度」の実施見送りで捻出できる年4000億円以内にすべきだとしている。

これに対し、国民の痛税感の緩和や分かりやすさ、景気対策になることなどを重視して対象品目を可能な限り幅ひろく設定するよう求めている公明党は、線引きを行えば混乱も招きかねないとして、対象品目を「酒類を除く飲食料品(外食を含む、年間軽減額約1.3兆円)」とするよう改めて求めた。穴埋め財源は、対象品目の設定議論と切り離して、税制・財政全体で捻出すべきだと主張している。

 

 こうした膠着事態を早期に打開するため、19日と20日、谷垣・自民党幹事長と井上・公明党幹事長も加わって非公式協議を重ねた。与党税制改正大綱をとりまとめる12月10日までに結論を出すことを確認しあったものの、隔たりの大きい対象品目や穴埋め財源について互いに主張を譲らず、一致点を見出すには至らなかった。

格上げした幹事長レベルの協議でも解決の糸口をつかめなかったことから、安倍総理は24日、谷垣幹事長や宮沢調査会長と会談して「国民の理解がえられ、事業者に混乱が起きないよう、わかりやすい制度にしてほしい。財源はいわゆる社会保障と税の一体改革の枠内で議論してほしい」「財政再建計画や一体改革など議論の積み重ねがあり、用意できる財源は限定されているので、それをしっかり守ってもらわないといけない。ない袖は振れない」と、導入段階では対象品目を限定し、一体改革の枠内で安定財源を確保するよう指示した。

 

自民党は、安倍総理の指示を踏まえ、対象品目を「生鮮食品」か「生鮮食品、パン類など一部の加工食品」で調整していく方針で、公明党の歩み寄りを期待する。これに対し、加工食品も対象に含めるよう主張している公明党は、安倍総理が対象品目や軽減額を明言するはずがなく、総理指示を都合よく解釈していると反発を強めている。菅官房長官も「一体改革の枠内とは聞いていない。安定財源の中でということであり、具体的な形で突っ込んだ指示はしていないと思う」「具体的金額は承知していない」との認識を示した。公明党は、譲歩しない姿勢を貫いており、安倍総理・自民党総裁と山口・公明党代表による党首会談での最終的な政治決着を期待する声もある。

両幹事長が交流事業として中国を訪問する12月2日までに大筋合意へこぎつけたい考えで、25日にも非公式協議を開く。ただ、総理指示の解釈をめぐっても溝が深まっており、協議難航の様相を呈している。

 

 

【予算編成や税制改正論議に注目を】

自民党と公明党は、与党税制改正大綱のとりまとめを進めている。最大の焦点となっている軽減税率の制度設計をめぐって、自民党と公明党の溝は深まったままだ。協議期限が迫るなか、自民党と公明党がどのように決着するのかが最大の焦点となっている。一方、政府は、今週中にもTPP対策大綱や1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策を決定し、これらを踏まえて、補正予算案や来年度予算案の編成作業を加速させる。

 

来年度予算案の編成にあたり、政府は、予算編成の基本方針の策定を経済財政諮問会議で進めている。24日に財政制度等審議会がまとめた2016年度予算編成に関する建議では、2016年度予算を財政健全化計画の成否が懸かっている予算と位置付け、政策経費から国債費・地方交付税交付金などを除く一般歳出を2016年度から3年間で約1.6兆円増という抑制目安を「逸脱することは断じてあってはならない」と、歳出改革に厳しい姿勢で臨むよう求めた。具体的には、社会保障関係費を「確実に高齢化による増加分の範囲内にしていくことを求める」と、概算要求6700億円増(2015年度比)から5000億円弱の増加に抑制するよう求めた。医療サービスなどの公定価格「診療報酬」では、診療報酬の本体部分のマイナス改定や、薬の値段などの「薬価」部分の抜本見直しなどを求めている。また、文教予算も、少子化傾向を踏まえて公立小中学校の教職員定数を約3.7万人減らせるとしている。

このことから、政府は、財政健全化計画の路線を「十分踏まえたうえで予算編成を行う」「着実な一歩を踏み出す」と、堅持する姿勢を基本方針に盛り込む。また、TPP対策や1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策の費用は「補正予算での対応とあわせて適切に対処」と、補正予算案と一体で計上することも打ち出すようだ。こうした基本方針を早急に固め、12月1日の閣議で決定することをめざしている。

 

 政府が決定するTPP対策大綱や1億総活躍社会の実現に向けた緊急対策の内容を抑えつつ、当面、補正予算案や来年度予算案の編成動向をウォッチしていくことが重要だろう。また、軽減税率の制度設計をはじめとする税制改正論議もチェックしておいたほうがよさそうだ。
 

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